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減量外科

肥満と肥満症

現在、世界人口の約3割が肥満であり、日本でも成人男性の28.6%、女性の20.3%が肥満(BMI25kg/m2以上、平成25年国民健康・栄養調査)であることが報告されています。なかでも病的原因のない肥満(原発性肥満といいます)を背景とし、健康障害を合併する場合に「肥満症」と診断されます(肥満症診断基準)。「肥満症」の方へは、一般的に食事・運動・行動・薬物療法が行われますが、残念ながら約9割の方は長期的な体重減少を維持していくことは困難です。そこで考えだされた治療方法が「減量手術」であり、長期的な体重減少とそれに伴った健康障害を改善できる唯一の方法です。

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肥満に合併する健康障害

肥満症患者さんの多くは「かかりつけ医」をお持ちですが、あまり病院にかかったことのない方は、まずは通いやすい病院を受診し、自身の健康状態を知ることからはじめましょう。以下に代表的な「肥満関連合併症」を図説します。

肥満に伴う合併疾患
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肥満に対する外科手術とは?減量治療とは?

まず肥満症に対する内科的治療を理解しておく必要があります。その基本は「食事・運動・行動・薬物療法」です。つまり食事制限や運動の推奨、行動の記録をして修正すること、これに投薬を組み合わせて行う治療法を指します。外科治療の基本は「摂食量の制限」と「栄養吸収の抑制」で、これらを単独で、もしくは組み合わせて手術をします。「手っ取り早く痩せたい!」といきなり外科治療を希望される方がおられますが、そのような考えをお持ちの方は必ずリバウンド(体重が元に戻ってしまうこと)しますし、治療ガイドラインにも「外科治療を受けるには6ヶ月以上の内科治療にもかかわらず改善が認められない方」という条件が明記されております。

それでは外科治療が用いられる「減量治療」について詳しく説明します。

まず、手術による「摂食量の制限」ですが、これは胃の容量を小さくすることによって1回の食事量を大きく制限することが目的です。術式によっても違いはありますが、およそ30ml~100ml程度の大きさに小さく形成します。もとに戻すことはできず、早食いや過量摂取など食事の仕方によっては嘔吐などの症状が現れやすくなります。次に「栄養吸収の抑制」ですが、食べた物は小腸内の消化液と混ざり合うことではじめて吸収できる栄養素に変化するのですが、その消化液と混ざり合って吸収される小腸の長さを短くすることを主な目的とする“バイパス”という処置がその主な方法になります。しかし2016年4月現在では、小腸のバイパス術は保険適応ではありません。まとめますと、減量治療とは、外科手術によって物理的な食事摂取や栄養吸収の制限をつけ、そこに内科的治療を組み合わせて行うことの総称をいいます。

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肥満手術の適応と術式

手術の適応ですが、日本では日本肥満症治療学会が2013年にガイドラインを作成し、以下のように定めています。これより先はBMIという言葉が多く出てきます。自身の体格を表すひとつの方法ですので、まずは計算してみましょう。

BMI(kg/m2)= 現在の体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)

  1. 18歳から65歳までの原発性肥満症患者で、6ヶ月以上の内科的治療を行ったにもかかわらず、体重減少や肥満に伴う合併症の改善が認められない場合。
  2. 減量手術が目的の場合はBMI 35kg/m 2 以上。
  3. 肥満関連疾患の治療が主目的の手術(Metabolic Surgery)の適応はBMI 32kg/m 2以上(臨床研究となります)
  4. 手術に先立ち、非手術的治療 (食事療法、運動療法、薬物療法、栄養カウンセリング、その他の減量プログラムなど)が十分に行われている。
  5. 外科医、内科医、看護師、栄養士、運動療法士、心理療法士など複数の専門家で構成されるチームアプローチにより、術前評価ならびに術後管理が行われている。

2016年4月現在、日本では腹腔鏡下スリーブ状胃切除術のみが保険診療とされていますが、その条件として、糖尿病、高血圧、または脂質異常症のうち1つ以上を合併している「肥満症」のみに限定されています。したがって、これら3つの合併症がない場合には保険診療からは除外されます。

術式についてですが、当院では2016年4月時点で保険収載されている腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を術式として取り入れています。この手術の特徴ですが、図のように穹窿部を含めた胃外側を離断・摘出し、縦長の細い胃に形成することで胃容量を約100ml程度にします。それによって1度に出来る食事量を減らすことが出来ます。この手術後には食欲刺激ホルモンとして知られる血中のグレリン濃度が大幅に低下することが示されていて術後の食欲調節に影響していると考えられています.体重減少に伴い、多くの肥満関連疾患は改善しますが、胃食道逆流症(症状としては胸やけなど)に関しては増悪する場合があります。

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肥満手術の効果とリスク

内科治療に対する外科治療の長期効果と有効性については2007年に海外の論文で証明されました[1]。2014年には別の研究において内科的減量効果が11.3%(%excess weight loss: %EWL;超過体重減少率)に対し、外科治療は75.3%であることが示されました[2]。日本で保険治療である腹腔鏡下スリーブ状胃切除術に関しては2015年に日本のデータが公表され、5年後の平均%EWLは64.2±28.5%であったと報告されました(表1)[3]。いずれの方法でも外科治療は内科治療に比較して有意に有効性が高いと証明されていて、個人差はありますが腹腔鏡下スリーブ状胃切除術での体重減少の平均は元の体重の約30~40%といわれています。

%EWLとは:超過体重減少率といい、おおよそ以下のようになります。
身長160cmの方の理想体重(BMI22kg/m2で計算)=1.6m×1.6m×22=約56kgです。 現在の体重が100kg(BMIは約39kg/m2になります)とすると、超過体重分は100kg-56kg=44kgとなり、「%EWLが64%」とはその44kgのうち約64%が減量したという意味ですので、44kg×0.64=約28kgが実際の体重減少量となります。したがいまして術後の実際の体重は70kg前後となります。個人差がありますので、あくまで平均を基にした参考値です。

次に肥満関連疾患の改善率についてです。腹腔鏡下スリーブ状胃切状術は、これまでの報告では1年後に糖尿病が改善する確率が約50~90%、高血圧は約40~50%、脂質異常症も約40~50%と報告されています[4]。しかし、ある条件を満たした患者さんの糖尿病改善率は90%以上であったと報告されました[5]。その条件とは、年齢が若いこと、膵臓のインスリン分泌機能が保たれていることなどが挙げられますが、それらをスコア化することで手術治療による糖尿病のおおよその改善予測を知ることが可能です。日本でも、これまでのデータを集積し解析していますが、とりわけ糖尿病改善率に関してはほぼ同様の良好な結果が得られています。

表1.腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の体重推移【平均】

Change in Weight (all cohorts, n=179)

手術に伴うリスクですが、どんな手術も100%安全なものはありません。以下に代表的な合併症(リスク)についてリストを掲載しますが、ごくまれに生じるものは掲載されていません。患者さんそれぞれの固有のリスクについては外科治療責任医からの個別の対応・説明となります。

a.死亡:
  • 0.2~1.0%の頻度で起こりえますが、脳や心臓、食道癌などの死亡リスクに比較すると著しく低いものであり、一般的には人工関節手術と同等と考えていただいてかまいません。
b.重篤な合併症(外科的処置が必要な場合があるもの)
  • 縫合不全、腹膜炎(つないだりした胃や腸がくっつかず、腸液が漏れ出てしまうこと)
  • 術後再出血、腹腔内出血(切った血管からの出血や腹腔内の脂肪、皮下組織からの出血)
  • 脾臓や膵臓などの損傷(腹腔内の脂肪によって、臓器の位置がわからないことがあります)
  • 術後腸閉塞(腹腔鏡手術では頻度は少ないですが、緊急手術となる場合があります)
  • 吻合部狭窄、胃管狭窄(形成した胃や吻合部(つないだ部位)が狭くなる場合は、内視鏡などで広げる処置が必要となる場合があります)
c.心臓・呼吸器に関するもの
  • 心筋梗塞、心不全、不整脈(予期できずに発生することがほとんどです)
  • 肺炎、無気肺(術後ベッドに寝ている場合に起きやすくなります)
  • エコノミークラス症候群(歩き出しなどのときに、足にできた血栓が肺に飛び、呼吸困難や心停止を起こします。頻度はまれですが、起きると致死的です)
d.肝臓・腎臓に関するもの
  • 急性肝不全(脂肪肝がベースの肝硬変がある場合はリスクが高くなります)
  • 急性腎不全(一時的な脱水などによる場合が多いですが、慢性腎障害をお持ちの方などの場合は透析が必要になる場合があります)
e.精神的なもの
  • 術後うつ状態(全ての患者さんに対し、術前より精神科の先生による介入を行います)
f.術後の代表的症状
  • 手術直後の嘔気(多くの方に認めます)
  • 退院後の胸やけ、逆流性食道炎(スリーブ状胃切除術に特徴的な症状です)
  • 栄養障害(鉄欠乏性貧血、ビタミン、ミネラルの欠乏、脱毛)
  • 満足できるまで体重が落ちない可能性(運動や食行動の見直し、手術への過剰な期待)
  • 皮膚のたるみ(痩せた後の余剰皮膚のたるみです)

ほとんどの症状は栄養士による指導や定期的受診によって解決することが可能です。

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手術治療を決意する前に必ずお読みください

減量手術は、それ単独では最大の効果を得ることはできません。この手術によって自分の食生活を見直し、日常生活を変える「きっかけ」となった場合に最大の効果を得ることができます。また手術の目的は「肥満症の改善」と「生命予後および生活の質の改善」であり、美容目的ではありません。楽して痩せたいと思っている方や、「手術を受ければ痩せるんでしょ?」という方は必ずリバウンドし、描いていた理想と結果の間で悩むことになります。そのようにならないためにも、継続的な外来受診や内科、精神科、栄養士を含めた総合的なサポートを受けることをお約束できる方が当院の提示する最低限の治療条件です。

手術の受けるには

肥満および合併症について、これまで内科的治療を継続的に受けられていた方は、かかりつけ医と連携し、これまでの治療内容やその様子についての情報提供をいだだきます。当院の内科と外科の診療責任医が「手術の適応がある」と仮判断を出した場合は、当院での精密検査を経て、最終的な手術適応やその時期についてカンファレンスを行い、各関連科全員の同意の元で手術を決定します。 継続的な内科的治療を受けていない場合は、当院の内科で肥満および関連合併症の治療を最低6ヶ月間、受けていただきます。その治療結果や取り組み方などの治療状況をカンファレンスで報告し総合的に判断して手術治療の適応を判断します。手術適応ではないと判断された場合は内科で継続的に治療していただきます。

手術をお断りする場合

療者と信頼関係が築けない方、全身麻酔がかけられないほど全身状態が悪い方、薬物依存・アルコール依存の方、ご家族の理解が得られていない方はお断りする場合がございます。また手術前は呼吸器合併症予防の目的で、最低でも1ヶ月間の禁煙をしていただきます。喫煙された場合や、疑わしい場合には血中ニコチン濃度の測定や手術の延期もしくは中止を判断します。

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最後に

記の内容でご不明な点がある場合や治療に躊躇されている場合は、まずは外来受診をお勧めします。すぐに手術適応とすることはしませんので、疑問や不安を取り除き、十分にお考えいただき、納得した状態で治療を進めてまいります。なお、腹腔鏡下肥満外科手術は、まだまだ進歩していく段階の治療方法です。今後、当院では保険収載されていない術式に関しましても、倫理委員会の承認および臨床研究登録の手続きを経た上で導入してまいります。

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参考文献

  1. Sjöström Lら: Effects of bariatric surgery on mortality in Swedish obese subjects. N Eng J Med 2007
  2. Ribaric Gら: Diabetes and weight in comparative studies of bariatric surgery vs conventional medical therapy: a systematic review and meta-analysis. Obes Surg 2014.
  3. Sekiら: Long-Term Outcome of Laparoscopic Sleeve Gastrectomy in Morbidly Obese Japanese Patients. Obes Surg 2016
  4. Golombら: Long-term Metabolic Effect og laparoscopic sleeve gastrectomy. JAMA 2015
  5. Lee WJら: Laparoscopic sleeve gastrectomy for type 2 diabetes mellitus: predicting the success by ABCD score. Surg Obes Relat Dis 2015.

(2016年5月2日更新)