
治療の特色
- 当院では1994年という日本ではきわめて早い段階から腹腔鏡下逆流防止手術を行っており、慈恵医大外科学講座ではこれまでに800件以上の手術経験があります。以下のような食道良性疾患に特化した診療を行っています。
- 24時間食道内多チャンネルインピーダンス・pH測定検査、高解像度食道内圧検査などの特殊な食道機能検査を行うことができ、確実な診断を行えます。
- 手術方法は腹腔鏡を用いた体の負担が少ない手術です。
- 専門のスタッフが配属されており、検査と手術を担当しております。
食道良性疾患(食道裂孔ヘルニア)専門外来(月AM,火・木9:00~15:30)
担当医:上部消化管外科 矢野文章/増田隆洋
食道裂孔ヘルニアを手術で治すという選択肢があります
手術件数
近年、大きな食道裂孔ヘルニアの患者さんが増加しています。超高齢化社会や肥満人口の増加といった社会背景が原因として挙げられます。しかしながら、手術で治せる病気であるとの認知が十分に広まっていないため、手術を実際にうける患者さんの数は全国でも多くはありません。
日本内視鏡外科学会の全国アンケート調査によれば、10年間の手術件数は3,501件であり、単純計算で1年あたり約350人前後の方が腹腔鏡下逆流防止手術を受けておられます。これは逆流性食道炎の患者さんと食道裂孔ヘルニアの患者さんを合わせた手術件数です。2つの疾患はオーバーラップしていますので、厳密に分割することはできません。
われわれの施設では、年度により変動は認められますが、現在年間40人から60人前後の患者さんの腹腔鏡下逆流防止手術を行っております。このうち半数はII型以上の巨大食道裂孔ヘルニアの患者さんです。 また巨大食道裂孔ヘルニアで手術を受けられる方の50%前後が80歳以上の患者さんです。なお当院の上部消化管チームは、日本内視鏡外科学会の技術認定医を取得している医師が現在4人おり、これらの医師が手術をしています。
当院における腹腔鏡下逆流防止手術の年間手術件数の推移

巨大食道裂孔ヘルニアの年間症例数の推移

巨大食道裂孔ヘルニア症例における
80歳以上の患者さんの割合

治療成績
慈恵医大外科学講座では、これまでに腹腔鏡下逆流防止手術を800人以上の患者さんに行いました。再発を予防するべく手術手技の改善を繰り返しており、2011年よりメッシュを用いて食道裂孔を補強する手術を導入し、2020年からは巨大食道裂孔ヘルニアに対しては胃腹壁固定術を追加で施行しております。 巨大食道裂孔ヘルニアでは術中に迷走神経を損傷するリスクが高くなります。以前は40%を超えていましたが、手術手技の工夫を重ねることで、現在では3%にまで改善されました。また、ヘルニア再発率も巨大食道裂孔ヘルニアでは高く、以前は15%以上ありました。胃腹壁固定術を追加し始めてからの5年間では約5%にまでヘルニア再発率が下がっています。
手術における合併症としては、出血や臓器損傷が問題となります。出血はほとんどの患者さんが少量であり、ここ10年間で初回手術中に輸血を必要とした患者さんはおりません。また過去30年間で、術後出血のため再手術を行った患者さんは1人のみです。他に胃壁の損傷と気胸(肺を包む膜を傷つけることにより肺が縮まる)を1人ずつ認めています。初回手術中に出血や臓器損傷により、腹腔鏡下手術から開腹手術へ移行した患者さんはいません。
一方、他の施設で手術を受けられた方が再発した場合や、当院での手術後に再発した方に再手術を行う場合があります。この場合、初回手術が腹腔鏡下手術であれば、再手術も腹腔鏡下手術で行えることが多いと考えています。 術後の合併症としては、つかえ感やお腹の張りなどがあります。これまでに手術を行った患者さんで、約1%の方に術後のつかえ感に対して内視鏡的な拡張治療を必要としました。また術後の食道炎再発率は約5%、食道裂孔ヘルニアの再発率も約5%です。
写真は胃と一緒にそれ以外の臓器も脱出するIV型巨大食道裂孔ヘルニアの患者さんのCT検査画像です。術前には胸にとび出した胃や腸で肺がおしつぶされています。会話をするだけでも息切れしていましたが、術後6ヶ月目の時点で食道裂孔ヘルニアの再発はなく、肺もきれいに広がっています。息切れせずに会話できるようになり、声をはっきりと出せるようになりました。
手術前後の内視鏡写真

(2025年4月更新)