小児外科 ヒーローイメージ
鼠径ヘルニア 陰嚢水腫(水瘤) 臍ヘルニア 停留精巣 包 茎 乳児痔瘻および肛門周囲膿瘍
小児外科 – 日常よくみられる病気

鼠径ヘルニア

お子さんがお風呂に入っているときや泣いたときなどに足の付け根(鼠径部)や陰嚢(いんのう)が膨らんで見つかります。腸が出てくることもあるので、いわゆる脱腸と言われている病気です。原因は、お子さんがまだお母さんのおなかの中にいるころ、その子が男の子であればお腹の中の腎臓の近くにある精巣(睾丸)が陰嚢の方へ降りてくる時に、腹膜というお腹の内臓を包み込んでいる袋を一緒に引っ張って降りてきます。女の子の場合は子宮を支える円靭帯という組織が同様に腹膜を引っ張ってきて恥骨にくっつきます。そしてこの腹膜が袋状に残ったものがヘルニア嚢(のう)と呼ばれる袋です。この袋は多くの子供では、自然になくなりますが、残った袋に、腸などが入り込んだのがヘルニアです。女の子の場合はときに卵巣がこの袋の中に引っ張り込まれこともあります。

ヘルニアで怖いのは嵌頓(かんとん)といって、脱出した腸がお腹の中に戻らない状態になることです。この時ふくらみは普段より硬くなり、お子さんが痛みを訴えたり、赤ちゃんでは、不機嫌になったり吐いたりします。放置すると、脱出した腸が壊死といわれる(組織が死んだ)状態になります。嵌頓した場合は早急に腸をお腹の中に戻す必要があります。まずは手で戻すことを行いますが、それでも戻らない場合は緊急手術で戻すことになります。女の子で卵巣が出ている場合は、無理に戻さず、可及的早期に手術することをお勧めします。

ヘルニアは片側のことが多いですが、約5%は両側で、同時に両側膨らむこともあれば、時期をずらして膨らんでくることもあります。 嵌頓の危険があるのでなるべく早く手術することをお勧めします。ヘルニアの手術の安全性は高いのですが小児では全身麻酔で行います。当院ではヘルニアに対して2通りの術式を行っています。

  1. 従来法:以前から行っている方法で、ヘルニアの出口のところ(お子さんのお腹の最も下のしわに沿って)に約1.5cmの皮膚切開をいれ、ヘルニアの袋を見つけ出し、その袋がお腹からでる出口を糸で縛ってヘルニアが出ないようにする方法です。
  2. LPEC法:腹腔鏡を使います。臍から細い腹腔鏡のカメラを挿入します。左の下腹部に約3mmの皮膚切開を入れ、細い道具(鉗子)を挿入します。腹腔鏡を見ながらお腹の外から糸の付いた針を通してヘルニアの袋の出口を縛って閉じる方法です。この方法では出ていない方のヘルニアも確認できるため、両側を一度に治療することが可能です(将来的な対側発生の予防)。また、男の子の場合、精索(精巣から精子を運ぶ管や精巣への血管が通るところ)をはがす操作が最小限なので精巣への負担も従来法より少ないとする報告もあります。当院では腹腔鏡手術を受けるお子さんが増えています。

どちらの術式も手術の翌日に退院となります。

従来法LPEC法
アプローチ体表腹腔鏡
再発率0-1%0-1%
対側発生5-10%ほぼ0%
ヘルニア門閉鎖糸吸収糸非吸収糸
手術時間(片側)30分以内30-40分
手術時間(両側)60分以内40-60分

陰嚢水腫(水瘤)

陰嚢水腫はヘルニアと同じ袋が原因で、そこに水がたまった状態です。陰嚢水腫だけの場合には嵌頓のような危険はないので急いで手術をする必要はなく、1歳までに多くが自然に消失するといわれています。以前は針を刺して水を抜くことが治療として行われたこともありますが、しかしその効果は一時的で根本的な治療ではなく今は行いません。1-3歳過ぎても残っている場合に手術の対象となり鼠径ヘルニアと同様の手術をし、そのときに袋内に溜まった水を抜きます。(当院ではヘルニアと同様に腹腔鏡下の手術も行っています)

臍ヘルニア

泣いたときなど、おなかに力がかかった時にお臍が膨らむ、いわゆる“でべそ”のことです。へその緒が脱落した後、臍の下の腹壁の閉鎖機序が遅れるため、その穴からお腹の腸が出てくることで起こります。比較的頻度の高い疾患で、出生児の約10〜20%に認めます。また、未熟児に多いと言われています。1歳頃までに多くが自然治癒するため、痛みや皮膚の変化がなければ、何もせず家で経過を見ていて問題ありません。1歳頃になっても自然治癒しない場合、今後治る可能性が低くなるため、手術が必要となります。傷が目立たないように臍の内側の皮膚を切開し、ヘルニアの穴を閉じて臍の形を整えます。

最近ではヘルニアの自然治癒を促進する目的で、綿球やスポンジで臍を圧迫する方法も外来で行っています。早めに始めた方がより効果が期待できます。圧迫の“こつ”や注意点があり、外来で丁寧に説明しています。

停留精巣

精巣はお子さんがまだお母さんのお腹の中にいる時には、お腹の中の腎臓の近くにあり、それが次第に下に降りてきて、多くは出生時には陰嚢内に降りています。出生後も生後6−8ヶ月ぐらいまでは、自然下降が期待できることがあります。その下降が不十分で、陰嚢内に精巣(睾丸)が1つしかない、または、両方ともない時、停留精巣が疑われます。精巣がお腹に近い位置にあり陰嚢内の適切な位置にない場合には、体温で温まることにより精巣の発達(精子を作る力など)が遅れたり、長い間放置されると精巣に悪性細胞が発生したりすることがあります。また、精巣捻転(精巣が捻じれて腐ってしまうこと)の危険性も言われています。そのため、停留精巣であった場合には、日本のガイドラインでは1歳前後から2歳頃までの手術(精巣を降ろして陰嚢内に固定する精巣固定術)が推奨されています。当院では予防接種の始まる1歳前に手術することが増えています。精巣が体表に触知せずにお腹の中にある場合には腹腔鏡を用いて精巣を陰嚢内に降ろす手術を行っています。

停留精巣と同じような症状に移動性精巣(遊走精巣)があります。移動性精巣であれば、手術は不要なことが多いのですが、移動性精巣と停留精巣の見分け方が難しいことがあります。当科では経験豊富な小児外科医が外来で丁寧に説明し、治療方針を決めていきます。

小児期の包茎は、生理的に正常なのですが、排尿時におちんちんの先端が風船のようにふくれたり、先端が赤く腫れたりする時には、治療が必要です。最近では、ステロイドの入った軟膏を包皮に塗り皮膚をやわらかくして包皮を剥きやすくする方法も行い外来で指導しています。(8〜9割で包皮が剥けやすくなり、排尿がスムーズになります)。それでも改善しない場合は、包茎に対する外科的な治療を行うことがあります。

乳児痔瘻および肛門周囲膿瘍

肛門の周囲の皮膚(特に肛門の横)が、赤くはれたり、そこから膿(うみ)が出てきたりした場合は、肛門周囲膿瘍(乳児痔瘻)が考えられます。この病気はほとんどが男の子で、生後1ヶ月ぐらいから認められます。免疫力を高めたり、排膿を促す目的で漢方薬の内服治療や、中に膿(うみ)がたまっている場合には、切開して、膿をだすことが必要となります。一度治っても、何回か繰り返すこともありますが、排膿を繰り返しながら、ほとんどのお子さんが1歳頃までに自然に治ります。自然治癒せず、痔瘻というトンネルができてしまった場合は、手術が必要になります。まれに、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)の初期症状として認めることがあります。