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主な疾患と治療法 研究 スタッフ紹介 外来担当医表

下部消化管外科

小腸・大腸の多岐にわたる疾患に対して、患者さんの体にやさしい手術を目指し、腹腔鏡手術を積極的に取り入れています。通常の開腹手術に比べ手術創が小さいため、早期の回復・退院が可能です。当科では2000年代早期より導入を開始後、徐々に症例数も増加し、現在は大腸癌の90%以上を腹腔鏡で手術しています。

現在は大腸癌のみならず、近年増加している炎症性腸疾患や、直腸脱などにも適応を拡大してきています。また、日本人の3人にひとりはかかっているといわれる痔疾患については専門外来を設置し、個々の病態に合わせて、切らずに治す「ALTA療法」をはじめとした各種治療法を行っています。

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主な疾患と治療法

研究

臨床研究

1. 個々の症例を詳細に記録したデータベース(手術症例、肝転移症例等)を整理・完成させ、より様々な視点からの多変量解析を行っています。

2. 消化器内科と共同のカンファレンスを行い、個々の症例に応じた大腸癌の集学的治療を検討しています。

3. Stationary 3D-manometoryを用いた肛門機能検査を開始し、肛門疾患のみならず大腸疾患の術後肛門機能の評価、治療も含めた総合的な治療に取り組んでいきます。

4. 成人男性初発片側性鼠径ヘルニア修復術におけるLichtenstein法とModified Kugel法の手術成績に関する前向きランダム化比較試験を開始します。

5. ストーマ造設後合併症の多施設共同研究に参加します。

6. 腹会陰式直腸切断術は、肛門を肛門管およびその周囲組織とともに切除する術式で100年以上全世界に広く普及しており、癌の根治性にはすぐれた術式でありますが、死腔炎や会陰創感染などの術後合併症が知られています。我々は肛門および肛門管を切除する必要性がない症例に対してInternal sphincteric resection (ISR)の手技を応用して経肛門的に腸管を切除し肛門管を閉鎖する術式 (Transanal Assisted Resection with Closure of anal canal: TARC) を開始しています。

7. 腸管と肛門を直接吻合しても排便機能が十分保たれることから、当科では潰瘍性大腸炎手術におけるJ pouch再建をcuff-lessでDST再建しています。また静脈の太さと比較して血管結紮用clipが大き過ぎるため、大腸全摘術の様に長時間の手術ではclipless手術を行うなど、潰瘍性大腸炎に対する手術の工夫を検討しています。

基礎研究

1. 本学生化学教室(吉田清嗣教授)との共同研究で、大腸癌手術検体からcDNAライブラリーを作成し、大腸癌の進展・増殖・転移に関与すると考えられる細胞内シグナル分子(DYRK2関連因子など)の発現解析、転写制御機構の解明を行います。その第一歩としてDYRK2の転写制御に関わるプロモーター領域を同定し、その制御メカニズムを解明することを目指しています。さらに、DYRK2転写制御の分子基盤に基づく診断・治療といった臨床応用の研究基盤を構築することを目標としています。また構築したcDNAライブラリーと臨床データベースを活用し、今後の基礎研究の基盤を整えていきます。

2. 大腸癌においてウイルスベクターによるDYRK2の過剰発現によって肝転移の抑制、転移腫瘍の増殖抑制が認められることも報告されています。そこで大腸癌肝転移モデルマウスを作製し、ウイルスベクターによるDYRK2過剰発現によって腫瘍増殖抑制効果があるか検討しています。最終的にはウイルスによる大腸癌治療の可能性を検討します。

3. 細胞増殖や分化、細胞死に関与する細胞内シグナル伝達系のキーファクターであるリン酸化酵素Xは、肝癌細胞においては細胞内から細胞外へと分泌され、細胞膜上に局在するXが増殖シグナルを亢進させ、細胞増殖やスフェロイド形成能に寄与することが本学生化学講座で発見されました。そこで、大腸癌においてのリン酸化酵素Xの分泌経路の解析を介して、大腸癌患者の血中X濃度と臨床病理学的所見との関連を検討します。さらに大腸癌ステージと血中X濃度との関連や、Xと既存大腸癌マーカーとの比較、新規マーカーとしての応用の可能性などを検討していきます。

4. 転写因子nuclear factor kappa B(NF-κB)と癌細胞に関する研究を行っています。直腸癌における化学放射線治療に関して、放射線により癌細胞周囲の微小環境の炎症が惹起され、腫瘍細胞の増殖、浸潤、血管新生に関与する転写因子NF-κBの活性化や細胞外基質分解酵素であるMMP(Matrix Metalloproteinase)の分泌が促されることが解っています。MMPにより基底膜が分解され、脈管侵襲を介し循環腫瘍細胞として血流に脱出し、転移臓器へと到達するため、癌転移のイニシエーターであるMMPの抑制は、術後遠隔転移の抑制へとつながります。Serine protease inhibitorであるメシル酸ナファモスタット(フサン®︎)がこのNF-κBの活性化を抑制し、抗腫瘍効果を有することが以前の研究で解明されました。そこで癌微小環境の炎症惹起を引き起こすNF-κBをフサンで抑制することの直腸癌細胞株に対する再発・転移抑制効果を検討していきます。また胆嚢癌細胞株に対しても同様の検討を行っています。

5. Disseminated intravascular coagulation (DIC) 治療に用いられるヒト遺伝子組み替えトロンボモジュリン製剤 (recombinant thrombomodulin; rTM) がメシル酸ナファモスタットと同様にNF-κBを抑制することが、以前の研究で判明しており、rTM併用化学療法が化学療法抵抗性の大腸癌細胞株に対する治療法となり得るかどうか研究を行っています。

6. 大腸癌手術検体を使用してオルガノイドと言われる三次元培養をおこない、オルガノイドを使用した薬剤のメカニズムについての基礎研究を開始しました。患者由来の組織を培養し、これに薬剤を投与して耐性を示した組織を使用して、薬剤耐性に関わる因子を同定・検索することが1つ目の目的です。さらにはあらかじめ耐性を示す因子を、患者検体を使用して同定し、より適切な薬剤の選択を事前に評価・選択する方法を作成することを本研究の2つ目の目的としています。現在は、大腸癌の手術検体からオルガノイドを作成するための培地の最適化の検討を進めているところです。患者由来の組織を用いて微小環境とともに薬剤に対する変化を見ることによって、より患者の生体内での反応に近い変化を見ることができると考えています。

7. 近年、腫瘍内に自己複製と腫瘍を構成する様々な系統のがん細胞を生み出す多分化能を持つ細胞(がん幹細胞 cancer stem cells, CSCs)が存在し、抗がん剤や放射線治療に対する抵抗性や、がんの再発・転移に関与する原因の一つとして考えられています。一方で、モロニーマウス白血病ウイルスに起因するマウスT細胞リンパ腫の解析から同定されたがん原遺伝子であるPim-1及びそのファミリー遺伝子に注目し、大腸がんにおける機能を、特に幹細胞性獲得機序に焦点を当て解析をしております。まずはPim-1阻害剤を利用し、その形態的もしくは機能的な変化の探索を進めております。さらにPim-1発現とCSCsとの関連性に関しても解析を進めていきます。

8. 血液中に存在する、腫瘍原性の循環腫瘍DNA(CtDNA)を用い、大腸癌StageⅢの術後補助化学療法の効果、再発リスク、モニタリングによる早期再発の検出などの項目に関してより高感度なバイオマーカーとしての可能性を検討していきます。また、これにより今後の大腸癌StageⅢに対する現行の一律な治療から、より患者個々のゲノムプロファイルに基づいた有効な治療法の開発へ進む足掛かりとなるような基盤を整えていきます。 9. 大腸癌において7、13、20番染色体の増幅が認められることが知られており、その中で特に腫瘍部で正常部と比して高発現している遺伝子をpick upし、臨床情報、in vitroの研究から大腸がんの新規バイオマーカーとしての可能性を検討していきます。遺伝子の発現量調整による大腸癌進展への影響の評価や、その作用機序の解明を目指します。

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