1. スタッフ紹介
池上 徹
当院外科学講座肝胆膵外科分野担当教授。2004年より米国ベイラー大学医療センター移植外科に臨床留学、肝移植に関する幅広い知識・手術手技・周術期管理の習得を行い、米国移植外科学会移植外科認定医を取得して帰国しました。帰国後は、前任地の九州大学消化器・総合外科にて肝移植を中心とした肝胆膵外科の臨床と研究に従事し、800例以上の肝移植に携わってきました。
その他のメンバー
移植認定医である古川賢英、春木孝一郎らが担当します。
肝移植外来は火曜日(池上・古川)、木曜日(池上・春木)に行っています。
2. 移植の現況
世界における肝移植の現況
米国のみで年間6,729例(2014年度)、世界的には10,000例以上と推定されています。その大部分は脳死肝移植ですが、近年生体肝移植も増加しています。1年生存率が約 80%、5年生存率が約 70%です。
わが国における肝移植の現況
2021年末までに生体肝移植が10,121例行われており、生存率は1年86%、3年82%、5年79%、10年74%です。脳死肝移植は、1997年7月に臓器移植法が施行されましたが条件が厳しく、2010年6月までで70例と極めて限られていました。しかし、2010年7月に臓器移植法が改正され、わが国でも世界標準である家族からの承諾で臓器提供が可能となり、2021年末までに718例行われております。
3. 当院での肝移植
2023年12月までに計39例の生体肝移植手術を行いました。
当院の生体肝移植適応の基本概念
生体肝移植の適応は、生体ドナーおよびレシピエントの生物学的かつ社会倫理的背景を基とした有益性とリスクのバランスが適切かつ許容できる範囲内であり、同治療を適応することで他治療よりも良好な成果が期待できることです。公共ドナーである脳死ドナー臓器は重症度の順に配分されますが、ドナーとレシピエントが1:1対応である生体肝移植では、より良好な状態での生体肝移植の適応が安定した術後成績に重要です。
生体肝移植の適応条件
- 進行性、致死的、不可逆性の肝疾患を有する。
- 生体肝移植が最も有効な治療法である。
- 生体肝移植の禁忌となる条件がない。
- 患者および家族が自ら納得して生体肝移植を希望している。
- 自らの自発的意思による生体肝移植ドナーがいる。
肝移植の禁忌条件
- 主要臓器(脳、心、肺など)の進行した不可逆的代替治療不可能な障害
- 全身・他臓器の活動性感染症(敗血症や重症肺炎など)
- 他臓器の悪性腫瘍
- アルコール依存症を含む現在進行性の薬物依存症
- 内科的治療でコントロール不可能な肺高血圧症や重症肝肺症候群
- 精神病など、術後療養に際して理解・協力が望めない場合
高齢症例に対して
65歳以上は個別に審議し判断します。
他臓器の悪性腫瘍を伴う症例に対して
5年生存率が生体肝移植よりも良好な悪性疾患を同時に伴う症例(生体肝移植にて肝不全状態を改善させてから併存悪性疾患の治療を行う)に関しては個別審議を行います。予後不良な悪性疾患を併存している場合は生体肝移植の適応とはなりません。
アルコール性肝疾患に対して
- アルコール性肝疾患と診断、禁酒指導歴がある場合は、生体肝移植は最終飲酒後6ヶ月以上の禁酒および精神科医からその継続性があると判断されることが必要です。
- アルコール性肝疾患と診断、禁酒指導歴がなく、初診時すでに肝不全が進行しており、6ヶ月の観察期間を維持するのが不可能な場合は個別審議します。
生体肝移植の適応疾患
非代償性肝疾患
Child B 以上で非代償性肝不全の臨床兆候(黄疸、腹水、肝性胸水、肝性脳症、食道静脈瘤)を伴う場合
多発性肝嚢胞
非代償性肝硬変の状態でなくとも、巨大な多発性肝嚢胞によりADLが障害されている(睡眠、歩行、摂食など)場合で、移植以外の方法で治療が困難な場合は、生体肝移植の保険適応とされている。
- 慢性肝細胞不全(ウイルス性肝硬変、アルコール性肝硬変、NASH、自己免疫性肝炎など)
- 胆汁うっ滞性疾患(原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎、胆道閉鎖症など)
- 急性肝不全(ウイルス性、自己免疫性、原因不明など)
- 代謝性肝疾患(尿素サイクル異常症、家族性アミロイドポリニューロパチー、糖原病など)
- その他(Budd-Chiari症候群など)
肝悪性腫瘍
肝移植が最も効果的な治療と考えられる場合
肝細胞癌(5-5-500またはミラノ基準)、肝芽腫、類上皮性血管内皮腫、その他
生体肝移植ドナー
社会的適応条件
- 成人で親族6親等以内、姻族(配偶者の親族)3親等以内
- 意思決定能力があり、自らの善意による自由意思で肝提供を希望している。
医学的適応条件
- 全身状態良好な健常人で、年齢65歳以下である。
- 活動性肝炎ウイルスマーカーが陰性で肝機能正常。
- 生体肝移植にて新たにレシピエントに伝播する感染症(HTLV-1やHIVなど)を認めない。
- 悪性腫瘍の既往がない、または治療後5年以上経過して治癒したと判断される。
- 生体部分肝が解剖学的に提供可能であり、肝切除の残肝が30%以上。
- 中等度以上の脂肪肝がない。
- 生体肝移植手術とドナー手術につき、その合併症と治療成績につき十分に理解している。
肝移植適応評価に関して
適応の判断が個別審査に該当する症例、あるいは境界領域と考えられる症例に於いては肝移植判定小委員会を開催して肝移植適応の評価を行います。それ以外の場合は関連各科の評価を経た上で書面会議とすることもあります。