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治療の特色と成績 当科での成績 おわりに
血管外科 – 慢性解離性大動脈瘤 – 治療の特色と成績

治療の特色と成績

 通常の胸腹部大動脈瘤と同様に、最大短径(真腔+偽腔)60mm以上を手術適応としています。但し、瘤径が60mmに満たない場合でも、瘤の形態・患者の体格・患者背景等を加味して早期に手術に踏み切ることもあります。手術適応に満たない場合は、半年毎にCT撮影をおこない、経過を観察します。当科では破裂リスクの高いB型慢性解離性大動脈瘤に対して、ステントグラフトによる血管内治療を積極的に取り組んでいます。

血管内治療の試み

 この領域における血管内治療方法は多岐にわたり、再治療率が高いという問題点はありますが、従来の外科手術(開胸開腹人工血管置換術)と比較して、手術侵襲および対麻痺のリスクは極めて低く、生存率の観点から当科での成績は良好であり、今後期待されうる新たな治療法と言えます。この初期治療のゴールはentry(血液が真腔から偽腔へ流入する動脈壁の亀裂の入口部)の閉鎖ですが、大きなentryを閉鎖し偽腔圧が低下した場合、re-entry(再入口部)が顕在化してくることがあります。そのre-entryの多くは腹部分枝の近くに存在することが多く、小口径covered stentなどを駆使してカバーして劇的な効果が得られる場合があります。全てのentryおよびre-entryの場所を正確に把握し、至適デバイスを留置し完全に閉鎖すると同時に腹部内臓分枝への血流を確保することが可能であれば治療効果はより確実となります。しかし一方で偽腔血流が低下することで臓器虚血や対麻痺などを発症するリスクも考えられます。今後はステントグラフトと小口径covered stentの組み合わせは胸腹部慢性解離性大動脈瘤に対する血管内治療を施行するうえで福音をもたらす新たな治療法であると考えます。

胸腹部慢性解離性大動脈瘤に対する血管内治療

図:胸腹部慢性解離性大動脈瘤に対する血管内治療(術中造影写真)
(上図:胸部ステントグラフト治療の術前・術後写真
 下図:腹部分枝動脈に対する小口径coverd stent、腸骨動脈ステント術の術前・術後写真)

図:胸腹部慢性解離性大動脈瘤に対する血管内治療(術中造影写真)
(左図:治療前、中図:初回治療後、右図:追加治療後)


当科での成績

当科での過去13年間(2006年7月~2019年12月)110例の成績を示します。

慢性解離性大動脈瘤

  • 手術死亡:  4例(3.6%)
  • 合併症:
    • 対麻痺  4例(3.6%)
    • 脳梗塞  1例(0.9%)
  • 再治療:
    • 血管内治療  41例(37.2%)
    • 外科治療へ移行  6例(5.5%)

おわりに

 胸腹部大動脈瘤に対する従来の外科手術は患者の救命に寄与しているものの、その侵襲が極めて大きいことから改善の余地を多く残していることもまた事実です。当科で積極的に導入している穴あき/枝付きステントグラフトは、低侵襲かつ合併症の少なさからも治療成績は良好と考えられますが、本邦ではまだ未承認デバイス(小口径coverd stentを含む)のため保険診療となっておりません。保険収載されていないので当院では院内の倫理委員会の承認を経て、デバイスを個人輸入で対応しています。