1) プログラムの目的と特徴
初期臨床研修システムの変容にともない、卒後2年間で経験できる外科的手技は自ずと制限が加わるようになった。したがって、専門修得コースでは外科学に関する基礎的な手技、知識はもちろんのこと専門領域の外科学について広く学ぶことが短期間のうちに要求される。医の倫理を会得し、高度な専門知識と技能を有する外科医の育成を目的とし、履修終了後には日本外科学会専門医取得が十分可能なプログラムを作成している。
このためレジデントに対しては客観的評価に十分対応できる知識と手術経験を有し、かつ各専門医資格(日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医・専門医、日本内視鏡外科学会技術認定医、日本胸部外科学会指導医、呼吸器外科専門医、日本小児外科学会指導医・専門医、心臓血管外科専門医、日本乳癌学会乳腺専門医)をもつスタッフによる直接指導を徹底している。レジデントに対しては3か月ごとに受け持ち経験症例、手術手技の一覧を外科学講座統括責任者に提出することを義務付け、レジデントの履修状況を常に把握できるシステムを構築している。一方、レジデント修練施設のスタッフに対しても、フィードバックを行いレジデントが適切な修練を受けられるような環境整備を行っている。また年2回(3月と9月)、レジデントと修練施設のスタッフがアンケート形式による相互評価を行っている。外科学講座統括責任者は相互評価表をもってレジデントと個別面談を行い、修練状況や問題点を明らかとしレジデントに対する個別指導を行っている。さらには外科学に関する基礎知識と臨床的知識の向上を目的とした、各領域の専門スタッフによる講義と外科手術手技ビデオ上映会を毎週2回開催している。
このように外科手技と外科知識一般を会得し、倫理観を十分に有する外科医師の作成が可能なプログラムとなっている。
2) カリキュラム
(1) 一般目標
- 外科医として医療に貢献するための基本的知識、技能、態度を習得する。社会の要望と信頼に応える外科医を養成すべく以下の4項目を到達目標として、段階的に研修を実施する。
- 外科医として必須である適切な臨床判断能力と問題解決能力を修得する。
- 日本外科学会専門医審査に合格するために必要な知識と技能を修得・経験する。
- 各種外科専門医(日本消化器外科学会専門医、呼吸器外科専門医、日本小児外科学会専門医、心臓血管外科専門医、日本乳癌学会乳腺専門医)取得に必要な基本的知識と基本的技能を修得・経験する。
- 医の倫理への適切な配慮と社会的要望を常に意識した習慣を身につける。
(2) 行動目標
- 外科患者の診断・治療計画を正しく立案できる。
- 外科的2、3次救急患者の初期治療を行える。
- 周術期の患者の適切な管理ができ、問題点を抽出できる。
- 外科臨床に必要な画像診断および器械的検査方法を取得する。
- 麻酔(局所麻酔、脊椎麻酔、硬膜外麻酔、全身麻酔)について理解し、実践できる。
- 内視鏡下手術を含めて、外科専門医取得に必要な手術手技の術者と助手が実践できる注1)。
- 外科腫瘍学に必要な知識を会得し、化学療法を行うことができる。
- ターミナルケアを適切に行うことができる。
- 学術研究のための資料や文献の検索と収集ができ、受け持ち患者を学術集会で症例報告をすることができる。またその内容を学術雑誌に発表できる。
注1)術者または助手として経験すべき各領域の手術手技の最低症例数は消化管および腹部内臓領域50例、乳腺外科10例、呼吸器外科10例、心臓・大血管10例、末梢血管10例、内分泌外科10例、小児外科10例、外傷10例、鏡視下手術10例であり、全体として350例以上を経験する必要がある。このうち術者は120例以上を経験する。
3) プログラム
(1) 1年目
- 外科入院患者に問診を行い、病歴録を作成できる
- 外科学的基本診察法を修得する
- 頸胸部の視触診:甲状腺、乳房、頸部リンパ節・腋窩リンパ節・鎖骨下リンパ節
- 腹部の視触診 :圧痛、腹膜刺激症状、ヘルニア、術創の有無、肝、脾、腎の触診。
- 直腸診 :痔核の有無、ダグラス窩の状況、直腸内腫瘤の有無など
- 外科的診察で得られた所見を正しく記載できる。
- 乳房 :腫瘍領域(A〜E)、大きさ、形状、硬度、可動性、圧痛、分泌 物、リンパ節の腫脹の有無など
- 腹部 :臓器腫大の有無と程度、腸管内ガスの状況、圧痛点の部位。腹膜刺激症状の有無と程度など
- 直腸診:外痔核と内痔核の判定と位置記載、Golligner分類。裂肛、肛門ポリープなど痔核以外の肛門疾患の有無。ダグラス窩の圧痛の有無
- 各種外科的基本的検査手技を実施(読影)でき、異常所見を指摘できる。
- 上部消化管エックス線造影
- 下部消化管エックス線造影
- 上部消化管内視鏡:異常所見部位より生検ができる
- 超音波検査:甲状腺、乳腺、腹部一般
- 外科入院患者の術前術後管理を理解できる。
- 合併症の有無と管理:喘息、糖尿病、心疾患、腎疾患など
- 術前の輸液管理
- 予防的抗生物質の洗濯
- 術後の栄養管理(輸液と経腸栄養)
- 経鼻胃管、ドレーン、尿道カテーテル
- ドレッシング
- 術後内服薬の選択
- 退院指導
- 外来での処置や小手術の助手(一部は術者)ができる。
- 胸腔内ドレーンの挿入(術者)
- 炎症性粉瘤の切開排膿(術者)
- 脂肪腫など体表の良性腫瘍の摘出(術者)
- 乳腺腫瘤摘出術
- 下肢静脈瘤硬化療法
- 下肢静脈瘤に対するストリッピング(術者)
- 指導医の指示のもと下記手術の術者ができる。
- 急性虫垂炎 :虫垂切除術
- 鼠径ヘルニア:鼠径ヘルニア根治術
- 肛門疾患 :肛門膿瘍切開術、痔核手術
- 腹水 :腹腔穿刺術、腹腔ドレナージ術
- 外科解剖を理解し、外科領域の専門手術の第二助手もしくは第一助手ができる。
- 甲状腺疾患 :甲状腺部分切除術、葉切除術、亜全摘出術
- 上皮小体疾患:摘出術
- 乳腺疾患 :乳腺腫瘤摘出術、単純乳房切除術、郭清を伴う非定型的乳房切断術
- 肺疾患 :開胸術、嚢胞切除術、肺部分切除術、葉切除術
- 縦隔 :腫瘍摘出術
- 食道疾患 :食道裂孔ヘルニア修復術、胃食道逆流防止手術(Nissen噴門形成術、Toupet噴門形成術)、食道アカラシア手術(Heller-Dor噴門形成術)、食道亜全摘術
- 胃疾患 :良性疾患に対する胃切除術、胃粘膜下腫瘍に対する胃部分切除術、胃癌に対する幽門側(噴門側)胃切除+リンパ節郭清、胃全摘出術+リンパ節郭清、胃瘻造設術、胃空腸吻合術
- 小腸疾患、腹部一般:小腸部分切除術、イレウス解除術、腸瘻造設術
- 大腸疾患 :結腸切除術+リンパ節郭清、直腸切除(切断)術+リンパ節郭清、人工肛門造設術
- 肝胆道系疾患:開腹ならびに腹腔鏡下胆嚢摘出術、総胆管切開術、胆道再建術、肝部分切除術、脾摘
- 血管疾患 :血液透析用シャント手術、下肢動脈血行再建術
- 小児外科領域:鼠径ヘルニア修復術
(2) 2年目
- 各種外科的基本的検査手技を実施(もしくは読影)できる。異常所見を指摘でき、鑑別疾患をあげることができる。
- 上部消化管エックス線造影
- 下部消化管エックス線造影
- 上部消化管内視鏡:異常所見部位よりの生検ができる。
- 超音波検査 :甲状腺、乳腺、腹部一般
- CT検査 :頸部、胸部、腹部、骨盤
- 各種外科的基本的検査手技の助手を行うことができる。異常所見を指摘できる。
- 超音波内視鏡(EUS)
- 内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)
- 腹部血管造影
- 外科入院患者の術前術後管理を立案し指導医の指導のもと施行できる。
- 救急蘇生を理解し、実行できる。
- 気道の確保(ジャクソンリースの使用、気管内挿管など)
- 呼吸管理(人工呼吸器の使用と管理など)
- 循環の管理(中心静脈カテーテルの挿入と管理、動脈ラインのモニタリング、スワンガンツカテーテルの管理など)
- ICU管理の実際
- 指導医の助手のもと、外来での処置や小手術の術者ができる。
- 胸腔内ドレナージチューブの挿入
- 炎症性粉瘤の切開排膿
- 体表良性腫瘍の摘出
- 乳腺腫瘤摘出術
- 指導医の指示のもと下記手術の術者ができ、退院までの管理を行うことができる
- 甲状腺疾患 :甲状腺部分切除術
- 乳腺疾患 :乳腺腫瘤摘出術、単純乳房切除術、郭清を伴う非定型的乳房切断術
- 肺疾患 :開胸術、嚢胞切除術、肺部分切除術
- 胃疾患 :良性疾患に対する胃切除術、胃粘膜下腫瘍に対する胃部分切除術、胃癌に対する幽門側胃切除+リンパ節郭清、胃瘻造設術、胃空腸吻合術
- 小腸疾患、腹部一般:小腸部分切除術、イレウス解除術、腸瘻造設術、虫垂切除術、鼠径ヘルニア根治術
- 大腸疾患 :結腸切除術+リンパ節郭清、人工肛門造設術
- 肛門疾患 :肛門膿瘍切開術、痔核手術、痔瘻根治術
- 肝胆道系疾患:開腹ならびに腹腔鏡下胆嚢摘出術、総胆管切開
- 血管疾患 :下肢静脈瘤に対するストリッピング
- 小児外科領域:鼠径ヘルニア修復術
- 外科科解剖を理解し、外科領域の専門手術の第一助手ができる
- 甲状腺疾患 :葉切除術、亜全摘出術
- 上皮小体疾患:摘出術
- 乳腺疾患 :郭清を伴う非定型的乳房切断術
- 肺疾患 :葉切除術+リンパ節郭清
- 縦隔 :腫瘍摘出術
- 食道疾患 :食道裂孔ヘルニア修復術、胃食道逆流防止手術、食道アカラシア手術
- 胃疾患 :胃癌に対する幽門側(噴門側)胃切除+リンパ節郭清、胃全摘出術+リンパ節郭清
- 小腸疾患,腹部一般:イレウス解除術
- 大腸疾患 :結腸切除術+リンパ節郭清、直腸切除(切断)術+リンパ節郭清、人工肛門造設術、大腸亜全摘出術
- 肝胆道系疾患:総胆管切開術、胆道再建術、肝部分切除術、脾摘、カテーテルによる胆道ドレナージ(PTBGD、PTCD、 ENBD)
- 膵疾患 :体尾部切除術
- 血管疾患 :血液透析用シャント手術
- 経験症例を学術集会で報告できる。
(3) 3年目
- 予定入院患者の入院から退院までの診療計画を立案できる。
- 救急外来患者の緊急度を適切に評価できる。
- 緊急手術が必要とされる疾患の診断:急性虫垂炎、消化管穿孔、絞扼性イレウスなど
- 他科領域の疾患との鑑別:泌尿器科系疾患、婦人科系疾患
- 悪性疾患に対する治療薬の作用機序を理解し、副作用を熟知する。
- 外科的基本検査手技を施行(読影)できる。
- 部消化管内視鏡検査:異常検査部位からの生検ができる。
- MRI検査:頸部、乳腺、胸部、腹部、骨盤
- 核医学検査:甲状腺
- 各種外科的基本的検査手技の助手を行うことができる。異常所見を指摘できる。
- 気管支鏡検査
- 胆道鏡
- 内視鏡的治療手技を施行でき、退院までの管理ができる。
- 部消化管 :各種止血法と止血術、胃ポリープ切除、隆起型粘膜内癌の切除
- 下部消化管:大腸ポリープ切除
- 指導医の指示のもと下記手術の術者ができ、退院までの管理を行うことができる
- 甲状腺疾患:葉切除術、亜全摘出術
- 乳腺疾患 :乳腺部分切除術+腋窩リンパ節郭清、郭清を伴う非定型的乳房切断術、センチネルノードナビゲーション手術
- 肺疾患 :嚢胞切除術、肺部分切除術
- 縦隔 :腫瘍切除術
- 胃疾患 :胃癌に対する幽門側胃切除+リンパ節郭清、胃全摘出術+リンパ節郭清
- 大腸疾患 :結腸切除術+リンパ節郭清、直腸切除(切断)術+リンパ節郭清、人工肛門造設術、大腸亜全摘出術
- 肛門疾患 :痔瘻根治術
- 肝胆道系疾患:腹腔鏡下胆嚢摘出術、PTGBD、PTCD、総胆管切開、胆道再建術、肝部分切除術、外側区域切除術、脾摘
- 膵疾患 :体尾部切除術
- 外科科解剖を理解し、外科領域の専門手術の第一助手ができる。
- 上皮小体疾患:摘出術
- 肺疾患 :葉切除術+リンパ節郭清、右(左)肺切除術
- 食道疾患 :食道裂孔ヘルニア修復術、胃食道逆流防止手術、食道アカラシア手術、食道亜全摘出術
- 胃疾患 : 胃癌に対する各種手術
- 小腸疾患,腹部一般:クローン病に対する狭窄解除術
- 大腸疾患 :結腸切除術+リンパ節郭清、直腸切除(切断)術+リンパ節郭清、大腸亜全摘出術、骨盤内臓器全摘出術
- 肝胆道系疾患:肝区域切除、葉切除、脾摘
- 膵疾患 :膵頭十二指腸切除術、慢性膵炎に対する手術
- 血管疾患 :動脈血行再建術、血管内ステント挿入術
- 学術
- 経験症例を学術雑誌に報告できる。
- 国内外の学会に積極的に参加する。
将来の専門分野を見据えた研修期間であり、上部/下部消化管外科、肝胆膵外科、呼吸器外科、乳腺・内分泌外科、小児外科、血管外科の診療研修が可能な施設での研修を適宜考慮する。
【学外施設:外科専門医制度修練施設・関連施設】
外 科
国立西埼玉中央病院、厚木市立病院、富士市立中央病院、町田市民病院、川口市立医療センター、春日部中央総合病院、国立成育医療センター、都立小児総合医療センター、埼玉医科大学病院小児外科、他