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肝胆膵外科 – 膵癌 – 治療の特色と成績

膵癌の治療法

膵癌の進行度は4つの段階に分けることができ、治療の大まかな指標として役立ちます。癌が比較的早期に発見され、広がりの少ない場合(ステージI、 II、 III)、治療の中心は手術療法です。しかしすでに癌が広がり、手術ができない場合(ステージIII、IV)でも、症状をうまくコントロールして患者さんのQOL(quality of life)を向上させることに努めています。

Stage I膵癌が膵臓内に留まり、リンパ節転移がない状態
Stage IIリンパ節に転移がある、または癌が膵臓周囲の大きな血管を巻き込んでいない状態
StageIII癌が膵臓周囲の大きな血管を巻き込んでいる状態
Stage IV遠隔転移がある状態

a. 手術療法

膵頭十二指腸切除術の切除範囲

1. 膵頭十二指腸切除術の切除範囲

膵頭十二指腸切除術における再建

2. 膵頭十二指腸切除術における再建

膵体尾部切除術の切除範囲

3. 膵体尾部切除術の切除範囲

膵頭部に癌が存在する場合、膵頭部だけでなく、隣接する十二指腸、胃の一部、空腸の一部、胆嚢および胆管を周囲のリンパ節とともに切除する術式、すなわち膵頭十二指腸切除術が行われます。切除範囲が大きく、術式も複雑なため、消化器外科領域ではもっとも大きな手術のひとつで、長時間(約6〜8時間)を要します(図)。特に残った膵臓、胆管、胃を再び空腸と吻合し、膵液、胆汁および食物の流れを作り直すには高度の技術が要求されます(図)。腫瘍が膵体部あるいは膵尾部に存在する場合には、膵頭側を残して、膵体尾部・脾切除術という手術を行います。この場合、十二指腸、胆管、胃などを合併切除する必要はありません(図)。また膵の広範囲に癌が存在する場合、膵臓の全摘術が必要となることもあります。この場合、糖尿病が必発で、食欲への影響も大きいため、患者さんのQOLは著しく低下します。

膵癌はリンパ節に転移しやすいのみならず、容易に周囲の結合組織や血管周囲の神経に沿って浸潤する特徴を持っています。このため、たとえ進行度(ステージ)が低く十分に取りきれた場合でも、再発率が高いのが現状です。最近では、術後に抗がん剤による化学療法を一定期間おこなった方が再発までに期間や生存期間の延長が得られることがわかってきました。当施設でも、根治的な手術の後に抗がん剤による術後の補助化学療法を行っています。

腹腔鏡(補助)下膵切除術

近年、腹腔鏡を用いた手術が進歩し、様々な病気が腹腔鏡で行われるようになりました。このため、これまで大きな開腹術が必要であった病気が、数箇所の小さな穴をあけるだけでできるようになり、痛みの軽減や、入院期間の短縮が可能となりました。

慈恵医大外科では国内でも早くから腹腔鏡手術を導入し、腹腔鏡下胆嚢摘出術をはじめ、肝、胆、膵、脾疾患を対象とした手術にこの技術を積極的に応用してきました。とくに膵臓領域では、腹腔鏡を用いてより小さな開腹創で病変を取り除く、腹腔鏡下/腹腔鏡補助下膵切除術を積極的に行っています。この腹腔鏡下/腹腔鏡補助下膵切除術は2012年4月から保険診療が認められ、対象となる疾患は膵臓の体部から尾部、あるいは脾臓近くに発生した、嚢胞性疾患や内分泌腫瘍といった良性あるいは比較的悪性度の低い腫瘍です。平成16年から平成29年12月31日現在までにわれわれが施行した腹腔鏡下/腹腔鏡補助下膵尾側切除術は57例です。

b. 化学療法(抗がん剤療法)

化学療法は膵臓癌治療において重要な位置を占めます。根治的治療法である外科的切除後の再発予防としての役割と外科的切除ができない場合、あるいは術後の再発時の治療としての役割を担っています。膵臓癌に対する化学療法の選択肢は、医学の進歩により増えつつありますが、まだまだその治療成績は満足できるものではないことから、海外の主要なガイドラインでは第一選択の治療として臨床試験が推奨されています。当科では標準治療に加えて、独自の化学療法を臨床試験*で行なっています。

また治療による副作用対策はとても重要です。我々は少しでも楽に化学療法を受けてもらえるように努めています。当科は非常に多くの症例を経験していることから、膵臓癌に対する化学療法は、ほぼ全例外来で行います。

*標準的治療薬であるゲムシタビン(点滴)・TS-1(内服)と、いわゆる抗がん剤ではない蛋白分解酵素であるメシル酸ナファモスタット(点滴)の3剤からなる化学療法を行っています。抗がん剤の多くは、投与されると癌細胞のNF-κBという転写因子の活性化がおこることが知られています。活性化したNF-κBは細胞の増殖シグナル伝達を亢進するため、このことが抗癌剤を効きにくくする(抗がん剤耐性)原因の一つとして報告されています(1,2)。本邦において膵炎や汎血管内凝固症候群(DIC)の治療薬として知られているメシル酸ナファモスタットに、NF-κBの活性化を抑える作用と膵癌細胞に対する抗腫瘍効果(アポトーシス誘導作用)があることが、我々の研究で明らかになりました(3)。そこでメシル酸ナファモスタットとゲムシタビンを併用することで、ゲムシタビンにより誘導されたNF-kBの活性化を抑制し、結果的にゲムシタビンの抗腫瘍効果を高めること、さらにメシル酸ナファモスタット単独での抗腫瘍効果による相乗効果を期待して、2007年より手術不能な進行膵臓癌の患者さんを対象としてゲムシタビンとメシル酸ナファモスタット併用療法を臨床試験としておこないました。その治療成績は、中間生存期間10.0ヶ月(4 – 26.2ヶ月)で、遠隔転移(肝臓・肺・腹膜など)を伴う進行膵臓がんに限っても9.0ヵ月(4 – 26.2ヶ月)(4)とゲムシタビン単独療法の生存期間(5)を上回る傾向にありました。また生活の質(quality of life)の改善という意味で重要な、癌性疼痛緩和効果も認めました(4)。現在は、さらなる生存期間の延長を期待したゲムシタビン・TS-1・メシル酸ナファモスタット3剤による化学療法を臨床試験(第II相試験)で行っています。メシル酸ナファモスタットは蛋白分解酵素阻害剤で、いわゆる抗癌剤でないことから、副作用の発現が増強される可能性は少ないと考えられます。

本臨床試験での治療においては、治療に先立ってメシル酸ナファモスタットを投与するための動脈内注入用ポート(動注ポート)を皮下に埋め込みます。ゲムシタビンは通常の点滴でおこない、TS-1は内服で、またメシル酸ナファモスタットは動注ポートから持続的に投与します。この治療も治療導入時のみ入院治療となりますが、その後は外来でおこないます。
  1. Arlt A. ほか Role of NF-jB and Akt/PI3K in the resistance of pancreatic carcinoma cell lines against gemcitabine-induced cell death. Oncogene (2003) 22, 3243-3251
  2. Kunnumakkara AB. ほか Curcumin potentiates antitumor activity of gemcitabine in an orthotopic model of pancreatic cancer through suppression of proliferation, angiogenesis, and inhibition of Nuclear Factor-kB: regulated gene products. Cancer Res (2007) 67, 3853-3861
  3. Uwagawa T. ほか Mechanisms of synthetic serine protease inhibitor (FUT-175)-mediated cell death. Cancer (2007) 109, 2142-2153.
  4. Uwagawa T. ほか Phase II Study of Gemcitabine in combination with regional arterial infusion of nafamostat mesilate for advanced pancreatic cancer. Am J Clin Oncol. (2013) 36,44-48
  5. Burris H.A.ほか Improvements in survival and clinical benefit with gemcitabine as first-line therapy for patients with advanced pancreas cancer: a randomized trial. J Clin Oncol. (1997) 15, 2403-2413.

当科で行っている膵臓癌に対する臨床試験

  • ■ 切除不能な進行膵臓がんを対象としたもの
    • 1.切除不能膵臓癌に対する持続動注メシル酸ナファモスタット併用塩酸ゲムシタビン・TS-1療法
  • ■ 根治的手術後膵臓がんを対象としたもの
    • 2.膵臓がんに対するメシル酸ナファモスタット持続動注併用塩酸ゲムシタビンによる術後補助化学療法

癌の治療成績

手術成績

2001~2007年の膵癌登録データよると、膵癌登録症例における進行度別の患者さんの生存率は、以下のようになります。StageⅠでも生存率は厳しい状況で、Stage IVでの3年生存率は20%以下であるのが現状です。しかし、非切除例では長期生存例はなく、切除例のみに長期生存例が存在することは事実です。当院では全国平均に比べ、良好な成績となっています。

進行度(ステージ)患者数(人)3年生存率
Stage IA20167.1%
Stage IB31050.0%
Stage IIA61545.3%
Stage IIB1,36723.4%
Stage III25720.4%
Stage IV56512.2%

当院では毎年10例以上、多い年には20例以上の膵癌の切除術を施行しております。2003年4月以降でみると、2017年12月までに209例の膵癌手術を施行しました。内訳は、膵頭十二指腸切除術が132 例、膵中央切除術が2例、膵体尾部切除術が69例、膵全摘が6例でした。術後30日以内の死亡(術死)は1名(0.5%)でした。

当院での膵癌切除症例の生存率:2003年~2017年 (n=209)

当院での膵癌切除症例の生存率:2003年~2017年

当院での浸潤性膵管癌(PDAC)切除症例の生存率:2003年~2017年 (n=189)

膵癌(PDAC):生存率

stage別 生存率:2003年~2017年 (n=189)

Stage別:生存率

(2018年9月6日更新)


肝胆膵外科 – 膵癌 – 膵癌Q&A

Q1 膵癌は増えているのでしょうか?

A1 膵癌は年々ゆるやかに増え続けています。発生率では男性では第5番目、女性では第6番目に多い癌です。1年間に全国で約20,000人が膵がんになっています。

Q2 膵癌にはどのような症状がありますか?

A1 膵臓の位置、構造の項で述べたように、膵臓、ことに、膵頭部に病気が存在すると、膵管、胆管、場合によっては十二指腸が影響を受けます。つまり、膵管狭窄によっては膵液が鬱滞して、膵炎による腹痛や背部痛が出現したり、胆管狭窄によっては胆汁が鬱滞して黄疸を発症したり、十二指腸狭窄によっては食物や胃液が鬱滞して、食欲低下や嘔吐などの症状が現れます。逆に、膵臓の体部や尾部ではこれらの症状が出にくく、発見が遅れがちになるわけです。また、腫瘍の影響で膵臓からのインスリン分泌が低下することがあるため、初めて糖尿病と診断されたときや、糖尿病が急に悪化した場合には注意が必要です。

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