血管外科 ヒーローイメージ
バスキュラーアクセスとは? バスキュラーアクセスの種類・作成 バスキュラーアクセス作成後の診察および検査 バスキュラーアクセスの治療(メインテナンス)
血管外科 – バスキュラーアクセスについて

当科はバスキュラーアクセスに対する治療を積極的に行っています

バスキュラーアクセスとは?

慢性透析患者において透析管理は、患者生命の維持およびQOLの向上の観点から極めて重要です。とりわけ、バスキュラーアクセスの管理は、患者生命予後に直結する課題であり、慢性透析患者数32万人を超えた透析大国である本邦にて、その重要性はますます高まっています。バスキュラーアクセスとは血液透析を行う際に、血液を脱血したり返血したりするための出入り口(アクセスルート)のことです。以前は“シャント”と呼んでいましたが、近年では動脈表在化、カフ型カテーテルなどのシャント(短絡)を伴わない出入り口(アクセスルート)も増加傾向であることから、近年は“バスキュラーアクセス”という表現で統一されるようになりました。

バスキュラーアクセスの種類・作成

  • バスキュラーアクセスは大きく分けて4種類あります。
    • ① 自家動静脈瘻(AVF)
    • ② 人工血管を用いた動静脈瘻(AVG)
    • ③ 留置型カテーテル(短期型、長期型)
    • ④ 上腕動脈表在化

ここでは、自家静脈を用いた動静脈瘻(①)の説明をします。図1の如く、ご自身の静脈を動脈と吻合させることで動脈血を直接静脈に流れるようにしたものです。この方法は最も一般的なバスキュラーアクセスであり、本邦におけるAVF(①)の比率は91~92%と極めて高く、留置型カテーテル(③)の頻度が0.2%と極端に少ないことが特徴的です。

実際の自家動静脈瘻の作製

図2.実際の自家動静脈瘻の作製(タバチエール吻合)
上記手術は局所麻酔にて約60分で施行可能です。

一方で、人工血管を用いた動静脈瘻(AVG)作成も当科では積極的に行っています。近年、人工血管の使用頻度は上昇傾向であり、高性能な人工血管の必要性が高まっていると考えます。人工血管に求められる性能は①高い開存率、②早期穿刺の可能性、③感染による重症化の回避です。本邦では、初のヘパリン共有結合型ePTFE性人工血管としてGore® Propaten graftが2014年から使用可能なり、血栓形成や新生内膜の増殖が従来のePTFE製人工血管と比較し抑制されると報告されており、当科ではこのような人工血管を積極的に使用し治療成績の向上に努めています。

ヘパリン結合型ePTFE性人工血管(上段)と旧人工血管との比較

図3.ヘパリン結合型ePTFE性人工血管(上段)と旧人工血管との比較
(旧人工血管と比較し、Propatenグラフトは抗血栓性向上効果が確認された)

バスキュラーアクセス作成後の診察および検査

バスキュラーアクセスを作成後は、定期的なメインテナンスが重要です。その根拠として、閉塞するバスキュラーアクセスの90%以上に狭窄が存在し、静脈圧150㎜Hg以上では、高度狭窄が86%以上に存在すると報告されている背景があります。そのためバスキュラーアクセス管理におけるClinical monitoring and Surveillance の重要性が重要視されています。

Clinical monitoringでは、シャントスリル、シャント雑音、シャント静脈の触診(狭窄部の確認)、止血時間の延長、シャント肢の腫脹などを確認します。一方、Surveillanceでは、バスキュラーアクセスの機能・形態を客観的に判断することが重要であり、バスキュラーアクセスの血流量の測定がその鍵となります。定期的にバスキュラーアクセスの血流を測定し、500mL/min未満、またはベースの血流量の20%以上の減少は狭窄病変が発現している可能性があります。また静脈圧の測定は、人工血管を用いたバスキュラーアクセスの狭窄評価には重要であり、超音波ドップラーを用いて測定した上腕動脈の血管抵抗指数(R.I.:resistance index)を客観的指標としてバスキュラーアクセス不全を検出します。RIは収縮期最高血流速度(PSV)および拡張末期血流速度(EDV)を用いて(PSV-EDV)/EDVであらわされ、多くの場合カットオフ値を0.6としてそれ以上では狭窄の可能性があるとしています。

バスキュラーアクセスの治療(メインテナンス)

バスキュラーアクセス機能を可能な限り温存するためには、定期的な検査とともに必要に応じた治療介入(バルーン拡張術;PTA治療)が極めて重要です。バスキュラーアクセスのメインテナンスは、その大半が狭窄病変に対するPTA治療となります。完全閉塞し再開通困難なバスキュラーアクセスは再造設する必要があります。

バスキュラーアクセス狭窄の治療(バルーン拡張術;PTA治療)に対しては、その状況に適した治療法を選択すべきです。2011年に発表された「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」では、バスキュラーアクセス狭窄の治療条件は、狭窄率が50%以上であり、下記の臨床的医学的異常が一つ以上認められることと報告されています。

  • (1)血流の低下、瘤の形成
  • (2)静脈圧の上昇
  • (3)再循環率の上昇
  • (4)予期せぬ透析量の低下
  • (5)異常な身体所見

バルーン拡張術(PTA治療)は、病変に対して視診、触診、聴診、超音波検査、臨床徴候などから総合的に判断することが肝要です。PTA治療を行うにあたり、常に開存率の向上を目指して治療する必要も重要な点です。

図4.PTA治療の実際(上段;治療前、中断;SHIRANUI6-40mmでバルーン拡張施行、下段;治療後、狭窄は解除されQB>200mL/minとなった)
PTA治療は局所麻酔下で行い、約20分で治療可能です。