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治療の特色と成績 当科での成績
血管外科 – 腹部大動脈瘤 – 治療の特色と成績

治療の特色と成績

 血圧を下げる等の内科的治療はほとんど効果なく、外科治療が中心となります。外科治療には、従来から行われているお腹を開いて行う「人工血管置換術」か、新しい血管内治療である「ステントグラフト手術」があります。

 「人工血管置換術」は、お腹を切開して大動脈の血流を一時的に遮断して、瘤の部分を人工血管で置き換える手術です。治療法としてほぼ確立しており、本邦での死亡率は1〜3%台と手術成績も安定しています。しかし、開腹するために体への負担が大きいことや、全身麻酔をかけなければならないこと、また将来の腸閉塞や性機能障害などの合併症に危険性もあります。心臓や肺に過度の負担がかかるため、高齢の方や合併症の多い方は手術リスクが非常に高くなります。また、全身麻酔を受けることができない方は治療が受けられないというデメリットがあります。

 それに対して「ステントグラフト手術」は、足の動脈(大腿動脈)から小さく折りたたんだステント付きの人工血管を大動脈の中に挿入し、レントゲン透視装置下で瘤の位置に留置固定する術式です。足の付け根を数mmから数cm切開するだけで行えるため、全身麻酔をかけられないような合併症の多い患者さんにも、局所麻酔あるいは背中の麻酔(硬膜外麻酔や脊椎麻酔)下で行えます。痛みが少なく入院期間が短くてすむのが特徴です。「人工血管置換術」では約2,3週間の入院期間を要していましたが、「ステントグラフト手術」では3,4日で退院が可能です。また、開腹しないので、手術リスクの高い高齢の方にとっては特に有用です。

慈恵医大血管外科では、大木教授のもと腹部大動脈瘤ステントグラフト手術を特に専門としており、数多くの手術を行っております。血管外科専用の手術室、正確な動脈直径計測を可能にするコンピューターを備えており、他施設のステントグラフト手術実施についてアドバイスも行っています。

 ステントグラフト手術についてご不明な点がありましたら、慈恵医大外科(血管外科)外来までご相談ください。

腹部大動脈瘤用のステントグラフトとは

 大動脈瘤に対する治療はこれまでは人工血管置換術が標準的な治療として行われてきましたが、一定の手術侵襲があることから全ての患者さんが適応となるわけではなく、高齢者や併存疾患のある患者さんには不向きでした。しかし、ステントグラフト治療の導入によりそれらの治療が困難な患者さんに対しての治療が可能となりました。ステントグラフトとは人工血管と金属製のステントを組み合わせ細く折りたたんだ器具で大腿動脈から挿入して目的部位にて拡張させることで人工血管置換術の代わりを果たすことで動脈瘤への血圧を防ぎ、動脈瘤の拡大を予防します。2006年に国内で初めて厚生労働省に認可を受け、その後2019年までに5機種の国内での使用が可能となっております。また当初開発されていた機種も改良されており、より低侵襲の治療が可能となっております。各ステントグラフトには特有の特徴を有しており、患者さんの血管の解剖学的特徴に沿って適応が決まってきます。また、臨床研究ではありますが海外で使用可能なステントグラフトを用いた腹部大動脈治療も行なっております。

Excluder ステントグラフト

Excluder ステントグラフト
Excluder ステントグラフト2

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 Excluder IBE3
 Excluder IBE4

Zenithステントグラフト

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Zenithステントグラフト2
Zenithステントグラフト3
Zenithステントグラフト4

Endurant ステントグラフト

Endurant ステントグラフト1
Endurant ステントグラフト2
Endurant ステントグラフト3
Endurant ステントグラフト4

Aorfix ステントグラフト

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Aorfix ステントグラフト2
Aorfix ステントグラフト3

AFX2ステントグラフト

AFX2ステントグラフト1
AFX2ステントグラフト2
AFX2ステントグラフト3
AFX2ステントグラフト4

東京慈恵会医科大学血管外科の特色

東京慈恵会医科大学血管外科では、ステントグラフトの指導医を10人有しており、動脈瘤に対して積極的にステントグラフト留置術を行っています。ステントグラフト治療を正確に行うには、厳格な症例選択、正確な動脈径の計測、熟達したテクニックが必要となります。当科では、画像処理ソフトウェアを実装した画像処理ワークステーションを用いて、正確な動脈のサイズ測定を行っています。最先端のX線透視装置を備えた血管外科専用手術室を持ち、並列手術にも対応可能です。また、医師のみでなく、看護師、放射線技師も血管外科手術専属の者が配属され、血管外科チームとして治療にあたります。


当科での成績

当科での過去13年間(2006年7月~2019年12月)1935例の成績を示します。

腹部大動脈瘤(待機手術)

ステントグラフト内挿術:1645例

  • 手術死亡: 2例(0.1%)
  • 合併症:
    • 脳梗塞:3例(0.2%)
    • 心筋梗塞:2例(0.1%)
    • ステントグラフトの脚閉塞:14例(0.85%)
    • 虚血性腸炎:6例(0.4%)
    • 末梢のシャワー塞栓症:6例(0.4%)
    • コレステリン塞栓症:4例(0.2%)
    • 対麻痺:1例(0.05%)

開腹・後腹膜経路手術:228例

  • 手術死亡:1例(0.4%)
  • 合併症 :
    • 心不全:2例(0.8%)
    • 肝不全:1例(0.4%)
    • 下肢コンパートメント症候群:5例(2.2%)
    • 下肢不全麻痺:1例(0.4%)
    • 腸閉塞:5例(2.2%)

腹部大動脈瘤(緊急手術)

ステントグラフト内挿術:45例

  • 手術死亡:6例(13.3%)
  • 合併症 :
    • 多臓器不全:3例(6.7%)

開腹・後腹膜経路手術:17例

  • 手術死亡:1例(5.9%)
  • 合併症 :
    • 出血性ショック:1例(5.9%)
    • 腎不全:1例 (5.9%)
    • 腸閉塞:1例 (5.9%)