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治療の特色と成績 当科での成績
血管外科 – 閉塞性動脈硬化症 – 治療の特色と成績

治療の特色と成績

 上述の如く、動脈硬化には、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常(LDLコレステロールの上昇)、喫煙が多いに関わりますので、ご自身の生活習慣を見直すことは最重要になります。これらの生活習慣病を適切に対処し、また、禁煙することは必要不可欠と言えます。その上で、症状や画像検査所見に応じて、薬物や運動による保存治療から、カテーテル治療(血管内治療)や外科手術といった血行再建術を組み合わせて治療を行なっていきます。生活習慣の改善や禁煙なされないと、例えこれらの血行再建術を行ったとしても治療効果が長持ちしないことがあるため、特に、糖尿病患者さんの血糖コントロールや喫煙者の禁煙は重要であると言えます。

(1)保存的治療

 保存的な治療としては、薬物治療と運動療法があります。

 薬物治療は抗血小板剤が基本になります。これは、血小板の血液を固まらせる機能を抑えて、いわゆる“血液をさらさらにする”薬です。その他、細かな血管を拡げる作用のある薬(血管拡張薬)も使用されます。

 もうひとつの方法として運動療法があります。一定の距離を歩くと足が痛くなる状態(間欠性跛行)の場合、運動を行うことで、歩行可能距離が徐々に延び、跛行症状が改善することがわかっています。具体的には、一日数回、足に痛みを感じるところまで歩くことです。これを毎日行うことで徐々に歩行可能距離が延長することが期待できます。筋肉痛が出現するまで歩行することによって、詰まった血管を迂回する新たな血管(側副賂)の増生が強化されるからです。

 重篤な心臓病や呼吸器疾患がない限り、間欠性跛行の患者さんは、まずはこれらの保存的治療を試みます。しかし、このような薬物療法や運動療法を施しても跛行症状の改善が得られなかった場合には、足への血流をさらに増やすため、以下のいずれかの血行再建術が必要となります。

(2)血管内治療(カテーテル治療)

血管撮影装置(ARTIS pheno)

血管撮影装置(ARTIS pheno)

 レントゲン透視装置を使用して、ワイヤーとカテーテルを用いて病変を治療する方法を血管内治療(カテーテル治療)といいます。治療の種類としては、バルーン(風船)を膨らませることにより、狭くなっている血管を拡げるバルーン拡張術(PTA)と、金属製のステントで狭くなった血管を裏打ちすることで血管を拡げるステント術があります。レントゲン透視装置を使用し、造影剤を用いて血管を造影しながら、治療を行います。局所麻酔での穿刺のみで治療を行うため、体に切開が入らず、体への負担が非常に小さいというメリットがあります。

 近年、血管内治療は目まぐるしく発展し、広く普及しています。また、日々、新しいデバイス(器具)やテクニックが次々に開発され、進歩の著しい分野であります。慈恵医大では最先端の治療もいち早く導入し、これらの血管内治療を行っています。

浅大腿動脈に対するステント留置

浅大腿動脈に対するステント留置

外科手術

 外科手術としては、人工血管や患者さん自身の静脈を使って、閉塞のある部位をバイパス(迂回)するバイパス手術、そして、血管壁の肥厚した内膜やプラーク(粥腫)を取り除くことで閉塞した部位を開通させる内膜摘除術があります。また、これらの外科手術と血管内治療を組み合わせるハイブリッド手術も行っています。外科手術は、血流を改善させるための非常に有効な治療法として確立しています。慈恵医大では、特に高い技術が要求される下腿や足首以下の動脈へのバイパス手術に精通しており、これらの手術を日々行っています。

足背動脈へのバイパス術

足背動脈へのバイパス術

各治療法の選択

 これらの治療が成功すれば、症状を改善させることができます。間歇性跛行の患者さんでは、歩行可能距離が延び、安静時痛のある患者さんでは、痛みの改善や壊疽の危険を回避できます。壊疽に至っている患者さんでは、壊疽が完成した部位を復活させることはできず、感染の予防や痛みのコントロールのため壊疽した部位の切断が必要となることがありますが、上述の血行再建により血流をできる限り改善させておくことで、切断範囲を最小限にし、さらに切断部位の治癒を得られやすくするといったメリットがあります。

 血管内治療と外科手術は一長一短であり、どちらが優れているとは一概に言えません。血管内治療は局所麻酔で施行するため、傷は針穴のみとなり、侵襲が少なく、入院期間も短いですが、全ての病気に適している訳ではありません。一方、外科手術は全身麻酔を必要とし、入院期間も血管内治療に比べて長くなりますが、血流の改善は大いに期待できます。近年は血管内治療を行うことが多くなっていますが、慈恵医大血管外科では外科手術と血管内治療の両者を行っているため、患者さんの病気に応じて、より適した治療法を選択できると自負しています。設備の面では、血管外科専用の高性能なレントゲン透視装置を備えた手術室を備えており、加えて、最先端の治療をいち早く導入し積極的に閉塞性動脈硬化症に対する治療を行っています。また、足にびらんや壊疽が生じるなどして足の継続的な処置が必要な患者さんを対象にフットケア外来を開設しています。足の治療を希望される方はお気軽にご相談いただければと思います。

フットケア

当科での成績

当科での過去13年間(2006年7月~2019年12月)の成績を示します。

外科手術 (バイパス、内膜摘除、ならびに血管内治療とのハイブリッド手術を含む):390例

  • 周術期(術後30日以内)合併症:
    • 死亡:1例(0.25%)
    • 重篤合併症(心筋梗塞、肺炎、脳血管障害など):12例(3.0%)

血管内治療 (ステント、バルーン拡張など) :520例

  • 周術期(術後30日以内)合併症:
    • 死亡:1例(0.5%)
    • 重篤合併症(心筋梗塞、肺炎、脳血管障害など):6例(1.1%)