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下肢静脈瘤とは? 静脈瘤の危険因子 静脈瘤の症状 下肢静脈瘤の病態 下肢静脈瘤の検査 下肢静脈瘤の治療 日常生活では?
血管外科 – 下肢静脈瘤とは

当科では下肢静脈瘤に対するレーザー治療を行っています

 2011年1月より下肢静脈瘤に対するレーザー治療が保険診療として認可されました。これまでは、自費診療で行われており、高額な自己負担がかかりましたが、保険診療となり、自己負担が軽減されました。従来の治療と比べてより低侵襲な治療が受けられるようになっております。

 欧米では1990年代にレーザー治療が開始されて以来、急速に広がり、静脈瘤の標準的治療法となりつつあり、日本においても、今後広く普及されていくものと考えております。当科におきましても、これまでの治療法(ストリッピング術、高位結紮術、硬化療法、保存的治療)に加え、レーザー治療を開始しております。それぞれの静脈瘤の病態、症状を総合的に判断し、治療法を選択していきます。

下肢静脈瘤とは?

 みなさんは温泉などにいったとき、脚の内側にみみずのように血管が浮いているのをみたことがあるのではないでしょうか〈図1-(a)〉? それが下肢静脈瘤です。一般的にかなり多くの方が持っているにもかかわらず、患者さん本人にとっても周囲の方にとっても病気という認識がなく、治療されずに放置されていることが多い病気です。確かに放置されていても生命にかかわることが少なく、重症感がないため、かかりつけ医にとっても治療の対象とされることが少ない病態です。しかし、適切な治療を受けることによって、静脈瘤に伴う症状をかなり改善し、生活の質(QOL)を向上させることができます。

静脈瘤の危険因子

 静脈瘤は女性に多く、特に妊娠、出産を契機に出現してくる方が多いです。また、年齢、長時間の立ち仕事、家族歴なども静脈瘤の危険因子となります。

静脈瘤の症状

 静脈瘤の症状としては(表)、症状がない場合もありますが、自覚症状として、脚がだるい、むくんでくる、脚がつるなどがあり、また、皮膚の症状として、皮膚がかゆい(静脈うっ滞性皮膚炎)、皮膚の色が黒ずむ(色素沈着)〈図1-(b)〉 、皮膚の潰瘍(静脈うっ滞性皮膚潰瘍)〈図1-(c)〉 などがあります。中には、静脈瘤の中に血栓を形成し、炎症を起こし、痛みがでる場合もあります(血栓性静脈炎)。こうした症状に加え、みみずのように血管が浮き、美容的な問題もあります。

図1

静脈瘤の症状

静脈瘤の症状

1.脚がだるい
2.夕方にむくんでくる
3.脚がつりやすい
4.皮膚がかゆい
5.皮膚が黒ずんでいる
6.皮膚に潰瘍ができる
7.炎症をおこして痛い
8.症状なし

下肢静脈瘤の病態

 静脈瘤の病態を次に解説します〈図2〉。脚の静脈には、脚の筋肉の間を走っていて、最も血流の多い深部静脈と、脚の表面を走っている表在静脈があります〈図2-(a)〉。表在静脈には、脚の内側を走っている大伏在静脈とふくらはぎの裏側を走っている小伏在静脈があります。大伏在静脈は股の付け根で、小伏在静脈は膝の裏で、それぞれ深部静脈に合流しています。また、ところどころ表在静脈と深部静脈を横につないでいる枝があり、穿通枝というものもあります。静脈の内部には、静脈弁が数カ所にあり、逆流を防ぐ役割をしています。動脈には心臓という強力なポンプがありますので弁は必要ありませんが、静脈の場合はポンプの代わりをしているのが、脚の筋肉などしかなく、静脈弁が血流を一方向(心臓に向かう方向)に保つ上で重要な役割をしています。しかし、この弁が壊れて、機能が悪くなると、立っているときには、静脈内の血液は、重力に従って、脚の末梢の方向に逆流してしまいます〈図2-(b)〉。静脈内の血液が有効に帰らず、ふくらはぎなどに滞ってしまいます。これを静脈のうっ滞といいます。表在静脈には高い圧がかかり、徐々に拡張してきて、静脈瘤となります。また、皮膚には色素が沈着して、黒ずんできて〈図1-(b)〉、さらに進行すると、皮膚が厚く固くなり、しまいには潰瘍が下腿の内側にできてくる場合もあります〈図1-(c)〉。治療の適応としては、静脈瘤が存在し、症状を改善させたい方、美容的に見栄えをよくしたい方が適応となります。特に潰瘍などができて、皮膚症状の強い方は、軟膏などの局所療法のみでは治癒しがたく、静脈瘤の治療が皮膚の治癒を促進させます。

 上記のような静脈瘤は一次性の静脈瘤といって、治療の適応となるものですが、静脈瘤の中には、二次性の静脈瘤といって、手術治療の適応とならないものがあります。二次性の静脈瘤は、深部静脈に血栓ができて血流が途絶え、その結果、表在静脈の血流が増加し、拡張してできてくるものです。静脈瘤となっている表在静脈が足の血液を心臓に返す血流の重要なバイパスになっているため、手術治療の対象外となります。

図2

静脈瘤の病態

下肢静脈瘤の検査

 静脈瘤の検査としては、駆血帯や超音波ドップラーによる理学的検査の他、画像検査としては、エコー、CTやMRI、静脈造影などがあります。通常は理学的検査でおおまかに表在静脈の逆流を判定しますが、深部静脈血栓の有無や不全穿通枝、静脈瘤の走行などをみるために上記のような画像検査を必要に応じて組み合わせます。

下肢静脈瘤の治療

 静脈瘤の治療としては、保存的治療と手術治療があります。

 保存的治療としては、専用の弾性ストッキングの着用です〈図3〉。弾性ストッキングは通常のストッキングより固く、圧迫力があります。圧迫することで、表在静脈の拡張が押さえられ、血液の逆流が減少し、静脈血は深部静脈に集中し、脚のうっ滞症状を改善することができます。ストッキング着用で進行を予防し、症状をコントロールすることはできますが、静脈瘤が消えてなくなる、治ることはなく、根本的に治療をするとすれば、手術を選択することになります。また、美容的に見栄えをよくしたいということも治療の適応になります。

図3 弾性ストッキング

弾性ストッキング

 

 手術方法としては、ストリッピング術、高位結紮術、硬化療法、そして、レーザー治療があります。従来、日本において広く使われている方法は、ストリッピング術であります。下半身だけの麻酔(脊椎麻酔)か全身麻酔下に逆流のある大伏在もしくは小伏在静脈を露出し、ストリッパーというワイヤーを通し、静脈を引き抜いてしまう方法です。皮膚には小さい創が数カ所つきますが、再発率が低く、根治性の高い手術法です。

 その他、静脈を抜去せずに、数カ所結紫して離断する高位結紫術、皮膚に傷をつけない治療として、硬化療法があります。薬剤を静脈瘤に注射し、圧迫することで静脈を閉塞させる治療法です。皮膚に傷がつかない利点がありますが、単独では再発率が高く、また、術後、数ケ月色素沈着を起こすことがあります。比較的小さな静脈瘤や他の治療で残った静脈瘤などがよい適応だと考えております。

 より低侵襲な治療法として、レーザー治療(血管内焼灼術:Endovenous ablation)があります。これまで、本邦において保険診療として認められておらず、自費診療としてこの治療が行われてきました。しかし、2010年6月に、下肢静脈瘤血管内治療用として、日本で初めて下肢静脈瘤治療用半導体レーザー「ELVeSレーザー」が薬事承認され、ついで、2011年1月1日より、この装置を用いたレーザー治療が保険適応となりました〈図5〉。治療方法は、表在静脈内からレーザーを照射し、静脈を閉塞させる方法であります〈図6〉。従来の高位結紮、ストリッピング術と比較し、低侵襲で日帰り手術が可能となり、切開を必要としないため、審美的にもすぐれているものであります。また現在ではさらに改良された1470nmRadial fiberのENDTHERMELASERを用いてより低侵襲のレーザー治療も可能となっております。

 今後、このレーザーを用いた血管内治療、従来の高位結紮、ストリッピング、硬化療法を、それぞれの病態に応じて適応を考慮していきたいと考えております。

図4 静脈抜去術(ストリッピング術)

静脈抜去術(ストリッピング術)

図5 ELVesレーザー:インテグラル社製/ENDOTHERMELASER:メディコスヒラタ社製

ELVesレーザー

ELVesレーザー

ENDOTHEMELASER 1470

ENDOTHEMELASER 1470

また、今後は静脈瘤治療における最新の治療として熱、局所麻酔、硬化剤を使用しないより低侵襲の下肢静脈瘤専用の血管内接着剤を使用するVenasealクロージャーシステムを用いた静脈瘤治療も行っていく予定です。

VenaSeal™ クロージャー システム

VenaSeal™ クロージャー システム

日常生活では?

 静脈瘤を患っている方で、日常生活の注意点としては、昼間に弾性ストッキングをはく、長時間の立位を避ける、適度に歩く、就寝時に下肢を少し高くするなどが症状を軽くする上で役立ちます。