操縦席の窓から(一般公開用)
操縦席の窓から

キャビンの窓から2026・後編
2026.01.02

飛行機

帰省を終え、東京へ戻る途中で梅田に立ち寄りました。お土産を求めて大阪駅前のデパートへ向かうと、入口にはお正月休みを告げる案内が。扉の前には私と同じように途方に暮れた表情の方が何人か佇んでいました。

営業日くらいスマートフォンで簡単に確認できる時代ですが、こういうときに限って調べていないものです。何事も下調べは大切ですね。

お土産の購入は早々に諦め、阪急の大阪梅田駅へと足を向けました。

阪急電車特有の深い色合いは、独特な品格を感じます。

「雲雀丘花屋敷(ひばりがおかはなやしき)」。

その名の響きには、どこか古雅な風情が漂います。

さすがに1月2日、7駅目の岡町駅に着く頃には車内もすっかり閑散としていました。
落ち着いたクラシックな内装からは長年走り続けるベテラン車両のような風格を感じますが、阪急2000系のデビューは2025年2月のこと。実はまだ、登場から1年も経っていないのですね。

約20分で蛍池駅に到着。

私の中で大阪府豊中市といえば、やはり伊丹空港です。

こちらで大阪モノレールへと乗り継ぎます。

一駅で大阪空港駅に到着。

伊丹空港の展望デッキ「ラ・ソーラ」へ。
関東は下り坂の予報ですが、こちらは風も穏やかで、冬の澄んだ夜空が広がっていました。

出発便も少なくなってきた時間帯。
セルフバゲージドロップも保安検査場も空いており、順調に制限エリアへと入ることができました。

帰路の機材は、ボーイング767-300ER。
787やA350といった最新鋭機の陰に隠れがちですが、いかなる路線も着実にこなすその姿には、「いぶし銀」という言葉がよく似合います。

現代の旅客機の多くはフライ・バイ・ワイヤ(FBW)を採用しており、パイロットの操作は電気信号としてコンピューターに伝えられ、最適化されたうえで機体に反映されます。

しかし767にはそのシステムがなく、操縦桿の動きがケーブルを通じてダイレクトに操縦翼面へ伝わります。そのためパイロットの世界では操縦が難しい機材とも言われているそうです。

Boeing767-300ER(JA614J)

定刻通りに搭乗開始。

左側の「大空へ、いってらっしゃい。搭乗橋も、シンメイワ。」という広告が目に留まります。 世界的なシェアを誇る搭乗橋(PBB)メーカー、新明和工業。その本拠地が宝塚市にあるためか、伊丹空港では同社の広告を頻繁に見かけます。

新明和工業は海上自衛隊の救難飛行艇「US-2」の開発から、特装車、パーキングシステムまで、多岐にわたる分野で社会の基盤を支えています。

余談ですが、アンバサダーキャラクター「メイメイちゃん」のイラストを手掛けているのは、絵本『パンどろぼう』シリーズで人気の柴田ケイコさん。こうした意外な接点を見つけるのも、旅の密かな楽しみですね。

搭乗機は定刻通りにスポットを離れました。

伊丹空港には14L/32R(1800m)と14R/32L(3000m)の2本の滑走路があり、羽田行きなどの中・大型機は14R/32Lを使用します。スポットを離れた飛行機が32Lへ向かうには、必ず14L/32Rを横断しなければなりません。この短い滑走路には小型機がひっきりなしに発着するため、大型機が不用意に横断すれば重大な事故につながりかねません。

通常、滑走路手前での待機指示は「Hold short of R-WAY 32R」と表現されますが、伊丹空港では誤進入が相次いだことを受け、「Hold short of STOP LINE」という独自の用語を採用しました。滑走路名を呼称するのは横断・進入の許可を発出する瞬間のみに限定することで、混同の余地を徹底的に排除しているのです。誤解を生む要素をいかに減らすか——その発想は、医療安全にも通じるものがあります。

AIS JAPANより引用

騒音軽減のため、滑走路末端のW1からは進入せず、W2から入ります。交通量が多く、住宅街や工場に近接する伊丹空港ならではの運用です。
ちなみにWのフォネティックコードは「Whiskey」です。

ボーイング767は機体の重量に対してエンジンの出力が極めて大きく、旅客機の中でもパワーウェイトレシオが群を抜いています。そのため離陸時の上昇性能も際立って高く、滑走路を蹴り上げるように一気に高度を稼いでいくその感覚は、まさに圧巻です。

伊丹空港を離陸し、左へ大きく旋回すると、神戸まで続く夜景が眼下に広がります。この景色を眺めたくて、大阪発の路線では常に右席を確保しています。

USJ、そして万博の舞台となった夢洲(ゆめしま)を見下ろしながら、機体は力強く高度を上げていきます。

東へ進むにつれて、眼下には次第に雲が増えてきました。

東大阪市周辺

機内Wi-Fiに接続し、Flightradar24にアクセスします。
自機の位置や周囲のトラフィックをリアルタイムに把握できるようになり、空の旅の楽しみがより一層深まりました。

関東地方は夜から雪の予報。出発直前に入手した情報によれば、高度2万2,000フィートから「moderate(中程度)」のタービュランスが予想されており、着陸まで揺れが続くとのことでした。

夜間のフライトということもあり機内でパイロットからの気象アナウンスが流れることはありませんでしたが、やはり事前の下調べは大切です。そして実際、降下中に2万2,000フィートを切った途端に揺れ始めました。

飛行機がいかに安全な乗り物か熟知している身としては、飛行機が揺れて怖いという感覚は皆無です。しかしフライトの快適性には大いに関わりますので、揺れの情報をあらかじめ知っているだけで心持ちは随分と変わるものです。刻々と変わる状況を想定、把握し、心構えをしておく。こちらも医療安全に通じます。

高度22,000フィートを通過

手元でレーダーを見ると、揺れをもたらす雨雲(雪雲)が広範囲に広がっています。

現在地と雲の様子を対比しながら、緊張感を持って飛行状況をモニタリングしていました。

東京アプローチ(進入管制区)の管制官による誘導を受け、いよいよ最終進入コースへと入ります。

ゴトゴトと揺れが続く中、機内は静寂に包まれていました。

羽田空港の進入形式はILS Z RWAY34L。

日本最大のトラフィックを誇る羽田ともなると数多くの進入方式が設定されており、その全容を把握しきることは容易ではありません。北風・悪天候時の34Lへの進入形式としては、おそらくこれが最も標準的な運用だと思われます。

ILS(Instrument Landing System/計器着陸装置)とは、悪天候や夜間でも航空機が安全に滑走路へアプローチできるよう、電波によって進入経路を誘導するシステムです。

着陸のためには、「どの方向から滑走路に向かうか」と「どの角度で降下するか」という二つの情報が欠かせません。ILSはこの二つを、それぞれ異なる電波信号で提供しています。水平方向の誘導を担う「ローカライザー」と、降下角の誘導を担う「グライドスロープ」です。パイロットはこの二つの電波が交差する空中のスロープに機体を乗せるようにして、滑走路へと精密にアプローチしていきます。

AIS JAPANより引用

ちなみに好天時に使われるILS X 34Lは東京湾上を飛行するルートとなり、市街地への騒音が軽減されます。

AIS JAPANより引用

窓の外は一面の白。雲に瞬く閃光灯の光が、なんとも言えずかっこいいです。

この機材にはスクリーンや機内Wi-Fiでのフライトマップの提供がありませんでした。揺れは比較的軽かったものの、現在地がわからない状況では不安を感じたお客さんもいたことと思います。海に突っ込むんじゃないか、そんな考えが頭をよぎっても不思議ではありません。

雲を抜けると、右手にD滑走路が姿を現しました。着陸はもうすぐです。

羽田のC滑走路沿いには航空会社の大型格納庫が立ち並んでいますが、その建物群を越えた気流が乱れを引き起こすことがあり、「ハンガーウェーブ」と呼ばれています。今回も着陸の直前にラフな揺れがありました。

霞がかった空港の灯りが幻想的に広がっていました。

雪の舞う、厳寒の羽田空港に無事到着しました。

ありがとうB6

飛行機を降りて到着ロビーへと向かう道のりには、なんとも言えない安堵感があります。

羽田からは電車に乗って帰宅しました。
伊丹から東京へ向かうフライトはただでさえ短いですから、神経を研ぎ澄ませているとあっという間に過ぎていきます。そんなフライトにも、必ず改善点や学びがあります。

それは外科学講座のスタッフなら誰もが心に留めている言葉にも通じます。

「完成された手術は一つもない」

一つ一つの学びを大切にしながら、今年もより高く、より遥かへ歩みを進めていきたいと思います。

操縦席の窓からトップ