
食道良性疾患(食道アカラシア)専門外来(月AM,火・木9:00~15:30)
担当医:上部消化管外科 矢野文章/増田隆洋
アカラシアは食べものや飲みものが胸でつかえて落ちない特殊な病気です
Q1 直線型のアカラシアで早期のアカラシアだという説明を受けました。手術は受けたほうがいいのでしょうか?それとももっと悪くなってからでもいいのでしょうか?
A1 手術を受けて頂くかどうかは基本的には患者さん自身に決定して頂きます。しかし (1)アカラシアは長期的にみれば進行性の疾患である、 (2)病気が進行していくのにつれて食道運動機能が低下していく、 (3)病態(病気の進行度のこと)が軽い患者さんのほうが進んだ患者さんと比較して、手術後の症状の改善が明らかに優れている、(4)よく効く薬がない、などの理由から手術をお勧めしています。
Q2 手術時間はどのくらいですか?また入院期間はどのくらいですか?
A2 手術の前々日にご入院して頂きます。手術時間はPOEMでは約1時間、腹腔鏡下ヘラー・ドール手術では約2時間30分です。どちらの術式も全身麻酔で行います。術後の入院日数は通常4日ですので、計7日間の入院期間になります。保険診療では、患者さんの所得や年齢に応じて、自己負担の限度額が変わります。高額療養費制度を利用した場合の実際の自己負担額は10万円前後です。
Q3 手術後は痛みますか?
A3 POEMは傷がありませんので、痛みはほとんどありません(ただし、胸の痛みが出ることがあります)。また腹腔鏡手術では小さな傷で手術しますので、開腹手術と比べると痛みは軽く済みます。入院中は術後の痛みに対して麻酔科チームが回診して鎮痛管理を行っておりますので(Jikei Post-Operative acute Pain Service:JPOPS)、痛みが不安という方にも安心です。
Q4 手術後どのくらいで仕事ができるようになりますか?
A4 POEMや腹腔鏡手術では、体の回復がきわめて早いことが特徴です。退院後は1週間程度で職場に復帰することが十分に可能です。基本的には患者さんが復帰可能と判断されたときで構いません。ただし、重労働をされる方はこの限りではありません。
Q5 手術の危険性はどのくらいありますか?
A5 アカラシアに対するPOEMや腹腔鏡手術の死亡例はなく、安全性が高い治療法です。過去10年で粘膜損傷は約9%に起きていますが、いずれも術中に修復できております。また腹腔鏡手術から開腹手術へ途中移行する必要があった患者さんは、当院の過去10年の集計ではいませんでした。
Q6 症状はすべてなくなるのでしょうか?
A6 アカラシアの症状は、主として、下部食道括約筋(LES)が開かないために生じる通過障害によるものです。つかえ感、嘔吐、逆流(特に仰臥位や夜間の逆流)、咳などの症状は術後早い段階から改善します。 しかし、食道運動障害自体は改善しませんので、早食いや大食いを行うとつかえ感がでることがあります。また、食事内容によっては、水分を補給する方が、流れが良くなります。 胸痛は食物の停滞によるものではありませんので、術後にも残ることがよくあります。胸痛による生活の質(QOL)の低下が著しい患者さんには、慈恵医大の独自治療である腹腔鏡下食道筋層全周切開術(CHM)の選択肢があります。
Q7 胃カメラによるバルーン拡張術は若いひとには効果が低いと聞きますが、本当でしょうか?
A7 バルーン拡張術は、一般的に高齢の方では効果が期待できると考えられております。これは加齢に伴い筋肉の弾力性が損なわれていくことから、機械的に押し広げられた筋肉がもとに戻りにくいからと考えられています。一方、若い方(特に40歳未満)では拡張後早期においては症状の改善が得られる方もおられますが、比較的早くもとの状態に戻ってしまうとされ、頻回に拡張術を受けなければならない可能性があります。 注意すべき点は、バルーン拡張術を繰り返し行われており、いざ手術療法が必要となった場合に手術操作が難しくなる、合併症の発生率が上昇することです。当院では拡張術を一度受けられて症状の再燃をきたしてしまった方には、手術をお勧めしております。
Q8 手術を受ける場合、どのような検査を行うのでしょうか?
A8 まず、手術は全身麻酔にて行いますので、全身麻酔を受ける際に必要となる血液検査、尿検査、レントゲン検査、心電図検査や呼吸機能検査を受けていただきます。その他、通常はアカラシアの病状を知るために食道造影検査(TBE)、胃カメラ、高解像度食道内圧検査(HRM)や胸腹部CT検査を行わせていただいております。手術後は血液検査やレントゲン検査を受けていただき、術後しばらくしてからはTBE、HRMおよび胃カメラを受けていただきます。
Q9 手術を受けたあとは定期的に外来を受診しなければならないのでしょうか?
A9 はい。可能な限り、定期的に外来を受診していただいております。術後1年経過した方は年1~2回の通院となります。ただし、遠方より手術を受けに来院されている方もいらっしゃいますので、ご自宅の近くなど通院しやすい病院で経過を見ていただき、必要時に来院していただいている方もおられます。たとえ調子がよろしくてもアカラシアの方は食道癌発生のリスクが高い(健常者の10~15倍)とされておりますので、定期的な胃カメラをお勧めしております。
Q10 手術をしても再発する可能性はあるのでしょうか?
A10 アカラシアの手術後に症状が再燃する可能性はあります。 他の施設で手術を受けたあと、症状が変わらない、再燃したとして当院で再手術を行った患者さんもいらっしゃいます。筋肉の切開が不十分であったことや、切開した筋肉が再癒合してしまったことが原因として考えられます。当院ではこれらを踏まえて、長めの筋肉の切開、および再癒合を防止するために食道ブジーを用いて手術を行う、切開した部分の筋肉を一部切除するなどの工夫をしております。 万一、症状が再発した場合には病態に応じて、当院ではPOEMも腹腔鏡手術もどちらも選択肢とすることができます。当院では再手術の成績についても検討を行い、日本外科学会の公式英文誌で報告しております(Akimoto S, Yano F, Omura N, et al. Redo laparoscopic Heller myotomy and Dor fundoplication versus rescue peroral endoscopic myotomy for esophageal achalasia after failed Heller myotomy: a single-institution experience. Surg Today. 2022 Mar;52(3):401-407. )。
(2025年4月更新)