
食道良性疾患(食道裂孔ヘルニア)専門外来(月AM,火・木9:00~15:30)
担当医:上部消化管外科 矢野文章/増田隆洋
食道裂孔ヘルニアを手術で治すという選択肢があります
Q1 クスリでは治りませんか?
A1 酸分泌抑制剤などのクスリで胸やけや呑酸といった症状を軽減させることはできますが、食道裂孔ヘルニアそのものを治すことはできません。一度ゆるんでしまった横隔食道靭帯(PEL)をクスリで元に戻すことはできないからです。また、つかえ感や息苦しさといった症状には薬が効きません。
Q2 筋トレや呼吸法で治るって本当ですか?
A2 筋トレや呼吸法で食道裂孔ヘルニアを治すことはできません。一度ゆるんでしまった横隔食道靭帯(PEL)を筋トレや呼吸法で鍛え直すことはできないからです。
Q3 手術が必要な場合はどんなときですか?
A3 多くの場合は小さなI型食道裂孔ヘルニア(滑脱型食道裂孔ヘルニア)であり、クスリで症状が治まっていれば、手術の必要性はありません。以下の場合は手術を受けることをおすすめします。
1.内視鏡検査で重症食道炎がみられる場合
2.クスリで症状がよくならない場合(24時間pHモニター検査による精密検査が必要です)
3.クスリを飲み続けなければならない場合
4.症状がある大きな食道裂孔ヘルニア(II~IV型食道裂孔ヘルニア)
Q4 高齢であっても手術を受けられますか?
A4 ご高齢(80歳以上)でさまざまな病気を合併されている方であっても、総合病院ならではの強みを活かして、安全に手術を受けられるようにサポートしています。最近では手術を受けられる患者さんの3人に1人が80歳以上です。
ご高齢の患者さんが、食道裂孔ヘルニアによって生活の質(QOL)が著しく下がると、活動性が下がり、家に引きこもりがちになってしまいます。ご高齢だからといって手術をあきらめる必要はなく、手術によってQOLを改善させ、活動性を取り戻すことは社会に好循環をもたらしてくれると思います。
1つの例ですが、80歳代の患者さんで食道裂孔ヘルニアによって肺がおしつぶされ、1分歩くだけでも息苦しくなってしまうという方がいらっしゃいました。もともとは買い物が好きで近所のスーパーに行くのを日課にしていました。しかし、食道裂孔ヘルニアの症状が出るようになってからは、買い物はご家族にまかせきりになり、家に引きこもりがちになってしまいました。手術を受けられて、退院の2週間(術後3週間)後に外来にいらっしゃいましたが、歩いたときの息苦しさは無くなり、大好きだった買い物にふたたび行けるようになったとお話されていました。術後1カ月も経たずにQOLが大きく改善された例です。このように、ご高齢であっても、手術前後で劇的な変化を体験される患者さんがいらっしゃいます。
Q5 手術後は痛みますか?
A5 傷の小さな腹腔鏡手術ですので、開腹手術と比べると痛みは軽く済みます。入院中は術後の痛みに対して麻酔科チームが回診して鎮痛管理を行っておりますので(Jikei Post-Operative acute Pain Service:JPOPS)、痛みが不安という方にも安心です。
Q6 手術時間はどのくらいですか?また入院期間はどのくらいですか?
A6 通常、手術の1~2日前にご入院いただきます。手術時間は食道裂孔ヘルニアの大きさによって異なり、2時間30分から4時間くらいです。術後7日目に退院の予定となっています。保険診療では、患者さんの所得や年齢に応じて、自己負担の限度額が変わります。高額療養費制度を利用した場合の実際の自己負担額は10万円前後です。
Q7 手術の危険性はどのくらいありますか?
A7 逆流性食道炎や食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡下手術における死亡例はありません。手術自体の安全性は高いのでご安心ください。
Q8 術後は何か別の症状がでますか?
A8 最も代表的なものは嚥下困難(つかえ感)です。これは、手術の際に胃で食道を巻きつけるために起こります。この症状はほとんどの方に出現しますが、1ヵ月でかなり改善し、おおよそ3ヶ月程度で消失するのが一般的です。それでも改善しないときには、内視鏡を用いてバルーンで拡張をすることもあります。
Q9 手術後どのくらいで仕事ができるようになりますか?
A9 当院での手術は腹腔鏡下手術であり、体の回復がきわめて早いことが特徴です。そのため退院後は1週間程度で職場に復帰することが十分に可能です。基本的には患者さんが復帰可能と判断されたときで構いません。
Q10 術後の再発の危険性や再手術の可能性はどうですか?
A10 滑脱型食道裂孔ヘルニアでは概ね5%程度に食道裂孔ヘルニアの再発が認められますが、症状が再発することはまれです。一方、巨大食道裂孔ヘルニアではヘルニア再発率が高いことが知られており、当院の成績でも15%以上ありました。近年、胃腹壁固定術を行うようになってからは、巨大食道裂孔ヘルニアにおいても再発率は下がっており、短期成績では5%程度でした。なお、再発や嚥下困難による再手術率は約1%です。
(2025年4月更新)