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小児外科 – 漏斗胸

漏斗胸

【漏斗胸とは】

胸の前面が陥凹している胸郭の変形をいい、原因は様々でわからないことも多くあります。先天性や遺伝性とも言われていますが、実際、受診される患者さんで家族性に見られるのは3割程度と決して多くはありません。また、生まれた直後(新生児期)から陥凹をしていることも多くなく、幼児期から学童・思春期までに陥凹が出現し、成長期に陥凹が進行する患者さんが多い印象です。 

さらに、数は少ないですが、幼児期から陥凹が見られているお子さんの中に成長に伴い陥凹が改善することも経験します。陥凹が改善する場合は、アデノイドの改善(手術)など漏斗胸を引き起こす原因がわかるお子さんもいますが、特に原因はわからずに改善することもあります。

【病態・症状】

外観の問題(患者本人の精神的なダメージ)が注目されがちですが、陥凹が深くなってくると前胸壁が心臓や肺を圧迫して症状が現れることがあります。

➣心臓の圧迫症状:漏斗胸の最も大きな問題は、心臓の圧迫による症状で「漏斗胸は循環器の問題」であるとも言われています。心臓は全身へ血液を送る臓器であるため、心臓が圧迫されていると運動で増えた血液の需要に対して心臓から十分な血液が全身へ送れなくなります。激しい運動で呼吸が苦しい(息がすぐに上がる)なども心臓の圧迫との関連性が考えられます。また、稀な症状では頭が痛い立ち眩みなどもありますが、手術後に血流が改善して症状の改善を自覚することもあります。さらに、圧迫症状は、運動時のみでなく長く座っていたり・胸をそらせたりすると感じる場合もあります。これも心臓と胸壁の距離が近くなるのが原因と思われます。その他に、水圧の影響で「苦しくなるのでプールや大浴場に長く浸かれない」と訴える患者さんも存在します。

陥凹が軽くても胸壁が心臓と近くなり(胸壁の凹みの部分と背中の距離が近い場合や左側が陥凹している場合)、圧迫症状を訴えることもあります。逆に、陥凹が目立っていても心臓への圧迫が少ないと症状がない場合もあります。このように、「陥凹の程度と圧迫症状は必ずしも一致しない」という印象です。

➣呼吸器の圧迫症状:陥凹により肺が圧迫されるのみでなく、気管・気管支の形状が扁平化することが知られています。手術で胸壁を持ち上げると気道は広がって、咳が減り喘息発作も軽くなることがあります。

➣消化器の症状:陥凹が強いと食道まで圧迫され、胃は肝臓とともに下に下がります。そのために「食べるときに詰まる感じがする」・「すぐに満腹になる(あまり食べない)」などを訴えることもあります。

症状の出現時期

小学校に上がる前は症状を自覚していることは少なく、小児期の漏斗胸は単なる胸の形の問題として扱われることがよくあります。しかし、陥凹が重度なお子さんは、「体力がない」・「食が細い」・「風邪をひくと咳が長引く」などの症状として現れ、稀に気管支炎や肺炎を繰り返す場合もあります。

心臓の圧迫症状は、身体が急に成長し運動量も増える小学校高学年から中高生頃に多くが出現します。成人以降に圧迫症状が出現して、徐々に増悪することもあり、30歳以降に仕事や日常生活への支障を訴える場合もあります。

*胸郭の形状の変化:心臓は正中より左側にあるために、心臓のない右側が陥凹している左右非対称の形状の漏斗胸が見られることは良くあります。一般的に非対称な形状は、成長とともに目立ってくることが多く、中高生以降では骨(胸骨・肋骨)そのものの変形も強くなり手術が難しくなることがあります。また、数は少ないですが左側が陥凹している非対称な形状や鳩胸と漏斗胸が混在したような胸郭変形の患者さんも見られます。

女性の場合は、乳房の発達で陥凹が目立たなくなるとは限りません。陥凹が中等度以上であると非対称または広範囲な陥凹がある場合は、乳房の形状(向きや大きさ)にも影響してきます。

【漏斗胸の治療】

漏斗胸の治療には①バキュームベル、②Nuss手術、③胸骨挙上術などがありますが、治療で最も重要なのは胸壁による心臓と肺の圧迫状態を改善することです。

バキュームベルは、手術は不要で痛みを伴うことはなく5歳ごろから使用が可能です。しかし、吸引効果で、硬い胸壁を挙上するには限界があり、時間もかかります。当院では、希望者に対して胸壁が柔らかい若年者や全身麻酔のリスクがある基礎疾患のある方で使用することがあります(外来で、バキュームベルを実際に使ってメーカーの方と使用方法を指導しています)。この方法は自費診療で、約10万円の経費がかかります。

慈恵医大では、目立たない創で胸壁全体を挙上できるNuss手術を推奨しています。Nuss手術は、保険診療で、チタン製のインプラント(ペクタスバー)を3年程度胸壁に留置して、陥凹を矯正する方法です。

手術時期:時期が早くても成長期に陥凹が再燃することがあり、逆に、成人以降では、胸郭が硬くなり治療効果が不十分であと戻り(再陥凹)の危険性が高まります。

そのため、当院では、10歳過ぎから骨の成長が止まる時期(男17歳、女15歳)までの時期での手術を推奨しています。小児期に受診された場合は、本人が希望しなければ経過観察を推奨し、圧迫による症状が疑われない場合は、10歳以降にCTなどで胸郭の評価を行い、治療の必要性を検討しています。

*陥凹が強く圧迫症状が考えられる場合に、本人が希望すれば就学前に手術することがあります。

成人のNuss手術

20歳以上では胸腔鏡下に両側の肋軟骨数本に切開を加え、胸壁を軟らかくしてからNuss手術を行います(体表の創部は、通常のNuss手術と同じです)。さらに、陥凹と骨の変形の程度や年齢により、胸部の前方に5㎝程度の縦切開を加えて、胸骨と肋軟骨の切開を加える胸骨挙上術のハイブリット手術で対応することもあります。当院の手術患者の3分の1程度が16歳以上になりますが、年齢が若いほど手術による改善が期待できます(Nuss手術で整容性と圧迫症状の改善が見込める40歳代前半くらいまでは手術を行ってます)。手術による改善効果は、陥凹の程度や形状による影響も大きく個人差があります。

Nuss手術の工夫

安全性と整容性を向上させるために従来のNuss手術に改良を加えています。

① 安全性の工夫

1)人工気胸:手術中は、胸腔鏡(カメラ)を胸の中に入れた後に、二酸化炭素を胸の中に送ります。麻酔科医が肺にガスを送る時に、二酸化炭素を充満させると手術操作に肺が邪魔にならず、患者にストレスなく安全な胸腔鏡操作が可能になります(手術の視野が改善し、肺の合併症も防ぎます)。

2)胸骨挙上:胸部の前(胸骨横)を3~4㎜切開して挙上鈎とワイヤーで陥凹した胸骨を持ち上げる手技(クレーンテクニック)により、前縦隔(心臓と胸骨の間)に隙間を作ります。この方法で安全な手術が可能になりました。(胸骨を予め挙上することで、術後の胸壁の整容性も改善します)。

3)鏡視下手術器具の使用:胸骨挙上により、手術に電気メスなどの内視鏡手術器具の使用が可能になります。止血が可能で従来のNuss手術に比べて、繊細で安全なNuss手術が可能になりました(術中のみでなく術後合併症の防止にも役立っています)。

手術の工夫(術中写真:2本のペクタスバー挿入)   
胸骨挙上(挙上鈎)と鏡視下手術器具を用いた手術

挙上と鏡視下手術器具を用いた手術

(鉗子とカメラは直径5㎜のものを使用)

② 整容性の工夫

整容性の改善の為、胸郭の形状により1本から3本までのペクタスバー(バー)を使用してます。

1)男性の場合:大胸筋が上がる(胸板が厚く見える)ようにバーの位置の工夫をします。
ある程度の身長がある小学校高学年以上で、陥凹が上胸部から広範囲に及ぶ場合は3本使用して胸筋の部分も挙上するようにしています。バーは大胸筋付近が挙上されるように、大胸筋の裏側に留置して胸骨と大胸筋部分を挙上します。大胸筋部分の陥凹なく、胸骨下端付近が陥凹している場合は、陥凹部付近に1~2本のバーを挿入して、陥凹部を挙上し心臓の圧迫を解除するように工夫します。(挙上鈎を使用すると、胸壁に厚みがあるように矯正可能です)
(手術創は両側胸壁に2~2.5㎝の斜切開を入れます:下写真)    

手術後1か月後の創部 (男性・3本使用)

右側胸部

左側胸部

2)女性の場合:乳房の形状の改善と創部が目立たないように工夫します。
胸部全体を過剰に挙上することは避け、乳房の位置を主体に2本のバーで挙上します。乳房の外側に沿う位置にし、目立たない創で乳房の形状も改善するように工夫しています(写真下)。         
 (CT画像でも、乳房の形状改善と心臓圧迫の改善が示されています;CT画像)

手術後1か月後の創部 (女性・2本使用)

右側胸部

左側胸部

創の長さは、バー偏位防止のスタビライザーを入れる1カ所のみ2.5㎝)で他は全て2㎝です。創部は吸収糸(溶ける糸)で、埋没縫合を行うので、抜糸は不要で創も目立ちません。

最近、手術時間は短くなり、バーの本数と年齢により左右されますが、60分弱から90分程度です。

  *術中合併症はなく術後合併症である感染・バーの偏位などもかなり少なくなりました。

 **術後1か月の創部は時間が経つと目立たなくなりますが、場合によりケロイド様に肥厚します。

***挙上鈎の創が前胸部につきますが、小さくほとんど目立ちません。

手術効果:胸部CT

手術前

漏斗胸の治療 1
手術前 

ペクタスバー抜去後1年

漏斗胸の治療 1
ペクタスバー抜去後1年 

胸郭の陥凹と心臓と肺の圧迫が著明に改善し、抜去後も維持されています

手術前

漏斗胸の治療 2
手術前 

手術後

漏斗胸の治療 2
手術後 

思春期の女性では、心臓の圧迫の改善とともに乳房()の形状の改善も見られます  

*成人でも改善が期待できますが、年齢が上がると骨が硬くなるため効果に限界があります。

【術後】

Nuss手術は術後の痛みのコントロールが重要です。手術後に病棟では、背中からの痛み止めのチューブ(硬膜外チューブ)と痛い時に痛み止めのボタンを自分で押せる(PCA:自己調節鎮痛法)を使用し、麻酔科を中心に痛みのコントロールを行います。痛み止めを飲み薬に変更して、手術後平均9日(早くて7日前後)で退院となります。

 *退院後2週間前後で痛み止めを飲まなくなる場合がほとんどですが、成人の方が痛みは長期間残る傾向にあります

**手術後は翌日から食事は通常通りで再開しますが、痛み止めの副作用による嘔気が出現し食べれないことがあります。食べれない時は、点滴で水分補給を行い、吐き気止めを使用します。

【退院後】

すぐに仕事(肉体労働除く)・通学は再開していただきます。体を動かすことは重要ですが、上体を捻る運動やぶつかる運動は一定期間の制限が必要です。運動は1か月目から軽いジョギングから開始し、3~4か月後から一部の体育・部活は再開できます。さらに、5か月後には、ほぼ全ての制限を解除し、バスケット・サッカー・野球などのスポーツの試合も参加可能です(ただし、ラグビー・柔道・格闘技に関しては制限を勧めています)。

この時期には、バーの周囲が線維性被膜に被われて安定し合併症も起こさなくなります。創部や痛みも落ち着くため、半年に1回程度の通院になります。寝起きやくしゃみ時の痛みが最後まで残りますが、時間が経つほとんど方でなくなります。

術後の胸部X線写真

チタンバー 2本
スタビライザー(→)

ペクタスバー (チタン)

手術創(→)

【抜去手術】

Nuss手術から3年後(成人でも最長5年)に抜去手術を行います。抜去手術は4日間入院で、手術時間は40分から80分程度で、挿入時と同じ創から器具でバーを伸ばして安全に抜去します。退院後は生活や運動制限はありません。抜去後は、高校生以上は1年程度、中学生以下は成長が止まる頃までは通院していただき外来通院は終了にしています。

【実績】

2001年以降で、合計570例近いNuss手術と約400例以上の抜去手術を経験しています。近年の年間手術数は約30~40例前後で推移しています。また、バキュームベルは10名弱で使用しました。

治療効果:外観と症状

下に写真の3名全員が、胸郭の陥凹以外にも手術前にあった胸痛や咳などの圧迫症状が手術後に改善しました。Nuss手術では手術直後から、心肺の圧迫状況の改善が見られます。

漏斗胸 治療と効果

【入院病棟】

中学生までの患者さんは、2020年1月に開設された母子医療センター(N棟)の5階(5N病棟)の入院になりますが、高校生以上は成人病棟(中央棟の9から12階の外科病棟)への入院となります。

コロナウィルスの感染状況に従って、現在は、面会制限がありますが、5N病棟では制限範囲内での面会は可能です。

【費用】

Nuss手術は保険診療の対象になります。小児医療費助成の対象になりますが、地域により対象年齢(15歳または18歳以下)や負担金が異なります。小児医療補助の適応にならない年齢は、一般の保険診療と同じで3割負担になります。

その他、3割負担の方は、高額療養費制度(加盟する公的医療保険に申請する制度で、医療費が高額になった場合に負担を軽減できる制度)が利用可能です。

また、厳しい所得制限があり、最近は利用が難しくなっていますが、自立支援医療制度(育成医療:18歳未満が対象で、住所のある市町村役場(区役所)が窓口)が対象になることもあります。

【専門外来】

水曜日午後 13時30分~16時30分(予約制)

慈恵医大小児外科の漏斗胸の専門外来(漏斗胸・胸郭変形外来)は、Donald Nuss先生の病院(米国、Norfolk)に、見学に行き2001年から始めた外来です。また、我々小児外科スタッフは慈恵医大外科学講座の中で成人外科のトレーニングも受けており成人の漏斗胸患者の治療も可能です(40歳代までは受け入れていますが、なるべく若い時期に受診されることをお勧めします)。

漏斗胸は、乳幼児期に治療することはありませんが、耳鼻科および呼吸器系の疾患が隠れていることもあり、漏斗胸を含む胸郭変形に関する診察・相談は受け入れています。 受診された患者さんは必ずしも手術が必要とは限りませんので、治療に関する相談・セカンドオピニオン・カウンセリングのみでも結構ですので、漏斗胸・鳩胸などの胸郭の変形で困っている患者さんは、ぜひ1度受診されることをおすすめします。

*大学病院ですので、紹介状(診療情報提供書)がないと小児でも5,500円の定額徴収が別途必要になります。かかりつけ医で良いので紹介状を書いていただいて受診されることをお勧めします。

*相談・通院は一部の慈恵関連派遣施設(富士熊谷新百合ヶ丘など)を利用することも可能です。

*漏斗胸に関する相談が可能な小児外科の関連施設は、東京慈恵会医科大学外科学講座内の小児外科のホームページに記載されている関連派遣施設をご参照ください