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治療の特色と成績 当科での成績
血管外科 – 胸部大動脈瘤 – 治療の特色と成績

治療の特色と成績

 治療の目的は動脈瘤破裂の予防です。一般的には動脈瘤を切除し、人工血管で置き換える人工血管置換術という手術が行われます。開胸した後に、体外循環を使用して脳を含めた臓器血流を維持しながら人工血管置換術を行います(弓部置換術)。動脈瘤が頭の血管や脊髄の血管や内臓の血管にかかっているときにはそれらの血管も再建する必要があります。したがって動脈瘤の範囲が広いほど合併症を起こす可能性もふえてきます。一番怖い合併症は対麻痺(脊髄麻痺による下半身の麻痺)です。その他、脳梗塞を含めた塞栓症出血、腎不全などの臓器不全、肺炎、人工血管感染などの合併症があります。また、2008年から胸部ステントグラフト内挿術という方法が保険適応となりなりました。これは足の付け根の部分を3cmほど切って大腿動脈からステントグラフトというバネ付きの薄く折り畳まれた人工血管を挿入して瘤の中で開く事で、動脈瘤への血流を遮断する手術です。直径7-8mmの管をとおして大腿動脈からステントグラフトを挿入します。動脈瘤の前後の正常な径の血管にステントグラフトが固定されることにより動脈瘤の内部には血流がなくなるので破裂が予防されるということです。この方法は1991年から始まった新しい方法ですのでその長期成績は明らかではありません。しかし、そのことを差し引いたとしても多大な利点があります。まず、この方法を行うためには全身麻酔ではなく腰椎麻酔(場合によっては局所麻酔)で可能です。したがって術後早期に食事、歩行などが可能であると同時に入院期間も手術後2-5日程度です。また、さまざまな合併症(閉塞性肺疾患、心疾患など)を有する場合も安全に手術可能です。

弓部大動脈瘤に対する枝付きステントグラフト術について

弓部大動脈瘤は前述の様に通常のステントグラフト術では頸部の分枝血管の温存が不能であるため枝付きステントグラフト術が必要となります。枝付きステントグラフト術の中には開窓型、枝型の企業性のステントグラフトを使用する方法と当科では開胸手術不能症例にのみ行っている術式(RIBS法)と呼ばれる術式を採用しております。この内、開窓型に関しては国内で認可承認をえられているNajuta(川澄化学工業)を主に使用して良好な成績をえております。RIBS法に関しては従来法(Chimney法)と比して脳梗塞などの点で良好な結果と言えます。

a-Branch

a-Branch1
a-Branch2

Najuta

Najuta1
Najuta2
Najuta3

RIBS

RIBS法1
RIBS法2


当科での成績

当科での過去13年間(2006年7月~2019年6月)782例の成績を示します。

胸部大動脈瘤(待機手術)

  • 胸部ステントグラフト術:610例
    • 手術死亡:8例(1.3%)
    • 合併症 :58例(9.5%)

破裂性胸部大動脈瘤(緊急手術)

  • 胸部ステントグラフト術:44例
    • 手術死亡:5例(11.4%) 
    • 在院死亡:8例(18.2%)

弓部大動脈瘤(頸部分枝再建を含む)

  • 枝付きステントグラフト術および開窓型ステントグラフト術:128例
    • 手術死亡:3例(2.3%)
    • 合併症:
      • 対麻痺 1例(0.8%)
      • 脳梗塞 8例(6.3%)
      • 上行大動脈解離 1例(0.8%)